地球飛行士からの手紙

音楽に関するブログです。

サブスク解禁されたので15年来ファンがバンプのプレイリストを作ってみた

解禁から2時間で作りました(深夜テンション)

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いや~6月28日0時! という変なタイミングでBUMP OF CHICKENの旧譜(ひとつ前のアルバム『Butterflies』まで)がサブスクリプション解禁となった。去年の雑誌インタビューでもメンバーの藤原がサブスクについて触れていたり、ほぼ秒読み段階には入っていたものの、7月10日に3年半ぶりのニューアルバムaurora arc発売、7月12日にツアー『aurora ark』出航が控えている中での、そっちに合わせるのかと思いきや何ともコメントし難い日時になりました。

ま、ともかく、せっかくですからこれを機会にBUMP OF CHICKENに触れてみたい!という方、久々にバンプに戻ってこよう!という方のために、これでも15年来のファンであります自分がSpotifyおすすめプレイリストを作ってみました。無料版の方はシャッフル再生でも勿論結構ですが、特に「はじめての」の方は曲順を作ってあるので良ければぜひ1曲目から再生して下さったら嬉しいです。

『(ファン歴15年が選ぶ)はじめてのBUMP OF CHICKEN

こちらから開く!

全20曲をセレクト。シングル曲/タイアップ曲、といったニュアンスでは選んでいないので有名曲だけおさらいしたい方はぜひベストアルバムもチェックするようにして下さい。

BUMP OF CHICKENの世界」を体感して頂くための選曲。11曲目の「midgard」を挟んで2部構成になっています。聞き流すだけでもいいですし、ここを区切りにしてじっくり歌詞を検索しながら聴いて頂けるとよりイイ感じだと思います。バンプの音楽は、とにかく歌詞がよく聴こえてくる。ぜひ物語の世界へとダイブしてみて下さい。

『(ファン歴15年が選ぶ)ディープなBUMP OF CHICKEN

こちらから開く!

またちょっと足すかもしれないけれど、記事執筆時点では18曲をセレクト。「ディープ」という表現をしていますが、どちらかというと初めて聴くにはちょっとキャッチーじゃないけど「ザッツバンプ」な名曲だよ! というニュアンスですね。

もし、最新曲まで解禁されたなら


 『はじめての~』の方に「話がしたいよ」と「アンサー」、『ディープな~』の方に「リボン」と「月虹」を入れたかったかなぁ。15年来ファンでも1日目ファンでも音楽は平等。これがバンプの音楽に触れる、またとない機会になりますように。

そういうわけでニューアルバム『aurora arc』もどうぞよろしくお願いします!

~~~~

(以下2019.07.16.追記)

『aurora arc』がサブスク解禁されましたので「はじめて~」の方に「話がしたいよ」と「アンサー」、「ディープな~」の方に「リボン」と「ジャングルジム」を追加しました。

【後編】空前絶後のライブツアー「PATHFINDER」とは、何だったのか。②

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ファンからの賞賛を浴びながら、16年半ぶりとなる非レコ発ライブツアー「PATHFINDER」が幕を閉じました。今回は、この空前のライブツアーがなぜ「特別」であったのかを、バンプのこれまでの現状を打破したツアー」であったこと、そして「セットリストで『物語』を描き出した秀逸な内容」であったこと、の2つに別けて書いてゆきます。今回は、その後編です。

※注意:「PATHFINDER」ツアーのネタバレを含みます


多彩な全40曲――異例尽くしのセットリスト、その特徴は?

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まずは、本「PATHFINDER」ツアーの基本セットリストをご覧いただきましょう。

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本編は、生演奏されたオープニングSEをのぞくと28曲から16曲のセレクト。アンコールは最後の3公演で演奏された「Spica」(上表では「さいたま新曲」)をのぞくと7曲からのシャッフル。そして新潟公演*1のみで12曲目に突然演奏された「時空かくれんぼ」、ライブハウス大阪公演のアンコールで披露された「flyby」*2、そしてツアー千秋楽では定番となる「DANNY」――など、一度だけ演奏された曲も計4曲。

ツアー通じて演奏されたのは40曲(直井が単独で披露したビヨンセのカヴァー「XO」を加えると41曲)で、「GOLD GLIDER TOUR」や「WILLPOLIS 2014」をわずかに上回り、ツアー史上過去最多の曲数となりました。また「SURF&PORKIN」以来16年半ぶりの非レコ発ツアーということもあり、過去全てのアルバムから幅広く楽曲が選ばれています*3


特徴的なのは、まず最初の三曲。ここ数年ライブの「見せどころ」で使われていた天体観測「ray」を早々に2曲目、3曲目で放出。ヤマ場をいきなり頭に持ってくる度肝を抜く選曲を見せました(rayと天体観測が本編で続けて演奏されたのは史上初)。

そしてライブ後半の12曲目~15曲目は、(「ラフ・メイカー」をのぞき)観客がコーラスするパートがある楽曲で固められました。ここ数年のツアーでは後半にも「箸休め」となるミドルナンバーを1曲は挟む傾向があったため、この「盛り上げ」重視のライブ構成は、後述しますが前半パートとのよい対比になっています。本編最終曲は「リボン」。静かなミドルナンバーでライブ本編を終えるツアーは、過去にはなかったものでした。

そして、最も語らなければならないのは――。「PATHFINDER」ツアー最大の特徴であり、また事実上のハイライトであったのが――4曲目から8曲目「楽曲の流れ」で大きなストーリーを描き出した、バンプ史上空前のライブ構成について、です。


「“いなくなった”あなた」へ。――藤原楽曲の新たなメインモチーフ

FLAME VEIN

再び、すこしだけ時間を巻き戻してみましょう。

BUMP OF CHICKENは1999年に『FLAME VEIN』でデビュー。翌2000年の『THE LIVING DEAD』で、藤原楽曲の大きな特徴となる「物語調の歌詞」、そして「孤独を進む勇気」を歌うテーマ性が確立します。この傾向は2003年発表の最高傑作ロストマンで頂点を迎え、2004年『ユグドラシル』発表でひとつのピリオドに到達します。

2005年プラネタリウムからは、それまでとは違う比較的穏やかな、おおまかに言えば「大切な“あなた”」についての音楽を書く傾向が強まり、2007年「花の名」で一度目のピーク、2010年「宇宙飛行士への手紙」と『COSMONAUT』で事実上の最高点に到達します。2012年、『ユグドラシル』以前の「孤独を進む勇気」「物語調の歌詞」、そして『COSMONAUT』的な「大切な“あなた”へ」の要素が同時に流れ込み、激しく激突する二曲目の傑作「ゼロ」へと集約。藤原の歌詞はここから第四タームへと折り返します。

ゼロ(通常盤)

2014年『RAY』以降、藤原の楽曲に特に強く表れてきた歌詞のモチーフがあります。それは、ざっくり言い表せば「“いなくなった”あなた」についての唄である、というものです。

RAY(通常盤)(予約特典ステッカー無し)

例えば「サザンクロス」での、<どんな今を生きていますか/僕の唄が今聴こえますか>と今ここにいない“あなた”を回想し、呼びかけるような歌詞。また「トーチ」<君といた事をなくさないように/どれだけ離れてもここにある 君がいる>と、いなくなった“君”に約束を作り自身を奮い立たせるストーリー。そして秀作「ray」でも、<お別れした><君><伝えたかった事が きっとあった>としながらも、<ごまかして笑っていくよ/大丈夫だ>と自分や“君”に歌いかける内容になっています。シングル「友達の唄」も、これはタイアップ先の映画からの影響が色濃いですが同じく「お別れする相手」へ想いを伝えるという曲*4「グッドラック」も切実な<さよなら>について歌った曲になっています。

もちろんこれが『RAY』の全てではありませんし、こういったモチーフは過去の曲にも(後述します)あったものですが、ぐっとその傾向が色濃くなり始めたのが、このアルバムからだったと言えます。『RAY』ツアーの最終日にあわせて発表された、そのものズバり「You were here」(直訳で「君はここにいた」)と名付けられた曲では、<また会いたい 会いたいよ/もう会いたい 会いたいよ/君がいるのに いないよ>と極めてストレートな言葉が歌われました。


この後、「君は今ここにいない」「さよなら」、というモチーフが、藤原の中で一種の異変を起こし始めます

2015年秋~2016年春までに発表された4曲、「ファイター」「パレード」「コロニー」「Hello, world!」*5、曲調はそれぞれバラバラなのですが、なぜか歌詞の主人公がどれもボロボロ状態でした。ロストマン」「ゼロ」に連なる大作「ファイター」はまだフィクションの色が濃いものの、<名前のない涙がこぼれて><世界は蜃気楼 揺らいで消えそう><こんなに今生きているのに 嘘みたい>と強烈に沈んだ状態が唄われる「コロニー」<数秒後出会う景色さえも 想像できなくなってしまった><どれが誰 誰が僕><時計に置いていかれる/昨日に食べられる>とちょっと普通ではない焦燥感が焼き込まれた「パレード」<扉開けば 捻じれた昼の夜/昨日どうやって帰った 体だけが確か>とかなりの体調不良状態から音楽が始まる「Hello, world!」の1番……。


これらの、そもそも「私はいまどこにいる」「私は今生きている?」という、これまで見ていた世界が揺らぎ、焦っている、一種の混乱状態が歌われた楽曲たち。「世界との距離感が失われている」状態は、特に「コロニー」で顕著なのですが、「今ここにいない君」との“通信”が、あたかも寸断されてしまったような解釈がとれるとも言えます。また、「パレード」「Hello, world!」では、まるで自分ではない何かによって自分がその場に取り残されてしまい、深い暗い自意識の枠にとらわれながらも、再び世界との距離と自分自身を取り戻すさまが歌われます。

「君は今ここにいない」「さよなら」が直接歌われているわけではないのに、まるでその「さよなら」の一言さえも言えなくなってしまったような困惑と焦りがーー、この時期書かれた曲に、ものすごく顕著に表れていたのです。


この後、そういった混乱状態は、「自分自身は自分を許せなくても、自分が選んだ未来はきっと自分を肯定するのだ」というメッセージを歌った「Butterfly」「GO」を続けて作詞したことで解消されます。ほぼ同じテーマで自意識について歌う「大我慢大会」では一種の余裕(と皮肉)すら見せ、また「ここにいない君」に対しても、「君」といた過去が冷たい石ころから<宝石>になったよ、と語りかける「宝石になった日」が生まれたりもしました。

そして、極めつけの楽曲が誕生します。後に『Butterflise』として結実するアルバム・レコーディングの最後に、「自分ではない何かによって取り残される」将来を示唆しつつも、今この瞬間が未来まで迷わずに歩ませてくれるはずなのだ、とさらに大きな視野でドラマチックに歌った秀作「流星群」が書かれたのです。系譜的には「宇宙飛行士への手紙」のような「君といるイマ」の流れを汲んだものですが、こうして見てくると、「今ここにいない君」という一連のテーマで、あえて時間をすこし巻き戻して書かれたものだという見方が可能になってくるかと思います。


まとめると、『RAY』から顕著になった「いなくなった“あなた”」についてのモチーフは、一旦そのテーマすら失わせるほどの(ノンフィクションに近い書かれ方をして)混乱状態をみせたものの、『Butterflise』制作期の後半にかけて次第に取り戻され、フィクション色の強い「流星群」によって昇華されることとなったわけです。


“君がいない”物語はフィクションへーー「アリア」~「記念撮影」での深化

Butterflies(通常盤)

長いよね……ごめんね……。でも本当にここで書きたいのは、実はこのあとの話だったりして……。

そういうわけで、「君はいまここにいない」というテーマの唄が、フィクション・あるいは物語性が強い内容として書かれた「流星群」。これが契機になったのか、同じような「フィクション色の強い」「今ここにいないあなた」の唄が、その後さらに急増してゆきます


『Butterflies』後の1曲目、2016年夏リリースの「アリア」では、在りし日の(今はもうここにいない)「君」との思い出、後悔、そしてイマにまで繋がる強い想いを(今度はアップテンポで)ドラマチックに描き出しました。「アリア」は『RAY』期の「サザンクロス」「トーチ」に近い内容ですが、中盤に情景描写をはさみ、よりフィクションの色が強くなっているのが特徴です。また2016年秋の「アンサー」では、「ray」に連なる自意識の世界からの肯定や解放感を歌い、かつて「誰かが」「主人公に」贈ったであろう「魔法の言葉」が、今・そして未来までをも指し示してくれているのだ、と歌い上げました。

そして2017年夏の「記念撮影」では、「アリア」からさらにフィクションの色を濃くし、同じく「今ここにいない君」に「イマ」から言葉をかけるという内容になっています*6

記念撮影

まだ1番しか発表されていない2017年初頭「流れ星の正体」ですら、<終わらないパレード/止まったら溺れる>「パレード」「コロニー」期の孤独の混乱を引用しつつも、「僕の空」と「君の空」は違うが(=「今ここに君はいない」)、それでも届いてほしい、この存在が「君の空」に輝いていてほしい、と歌う内容になっています。おそらく未発表の2番以降では、この「君」は「今は(物理空間としては)ここにいないけれど」ということを前提に、歌詞が続くのだと推測すらできます。

こうして読んでゆけば、読んでゆくほど……どれも驚くほどに、同じようなテーマの歌詞ですよね。

なぜ藤原にいま、こんな「モード」が訪れているのかは判りませんが……。

この傾向が、ライブのセットリストでも存分に反映されていたのが、正に今回の「PATIFINDER」ツアーでした


セットリストで描き出した"物語"!ーーPATHFINDERツアーのハイライト

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改めて、「PATHFINDER」ツアー、4曲目~8曲目のセットリストです。

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まずは4曲目から5曲目。前述の通り「トーチ」は、「今ここにいない君」に対して炎を掲げ、思いを叫ぶというエモーショナルな曲。続く「メロディーフラッグ」も、「かつて目印を深く突き刺した」「僕ら」が、時を経て「独りに慣れて」もこのことを「思い出して」くれ!と伝える歌。トーチも、フラッグも、ここに「私」があることを掲げるための“何か”ですよね。この2曲が続けて演奏されると、まるで両方の物語が繋がっているかのように感じられます。また「宇宙飛行士への手紙」は「かつて一緒にはいなかった二人」と「笑いあった過去」が、いつか二人引き裂かれても「未来まで照らしてくれる」と歌う曲。これに続けて「Ever lasting lie」が演奏されると、そうして二人で誓い合った「ひとつの嘘」が、本当に「未来まで」……つまり“最期”まで、二人の焔を照らし続けたことが明らかになって……。あ、なんか、ちょっと、この順番はヤバくないですか……?

Ever Lasting Lie

Ever Lasting Lie

  • provided courtesy of iTunes

 そして、「とっておきの唄」「Ever lasting lie」のちょうど真反対です。後者が「一瞬のような永遠」を歌ったものならば、前者は「永遠のような一瞬」をエモーショナルに歌い上げる名曲。「この日」を間違いなく確かめ合って、ふたりで刻むようにこれからも生きていこう……というテーマの根底は、未来にまで心を思い馳せる「宇宙飛行士への手紙」、そしていつか二人が同じ場所にいなくなっても……その約束は続くんだと力強く肯定する「トーチ」にも通じています。

どの組み合わせで続けて聞いても、あたかも物語が繋がっていくような展開をみせる4~5曲目。このような「大切な“あなた”」との未来にまで約束を作る「イマ」の歌、というテーマをここで提示した上で、セットリストはさらに物語の奥深くまで私たちを連れてゆきます。


必然だった「pinkie」の復活ーー「記念撮影」から「pinkie」、そして「友達の唄」「花の名」

HAPPY

「PATHFINDER」ツアーで、多くのファンに驚きをもたらしたライブ未演奏曲「pinkie」のセットリスト入り。実は一部ファンからはこの曲が*7演奏されるのではないか?という予想がツアー開始の数日前から飛び交っていたのですが、個人的にはその話を聞いた時、素直に「あ、それはありえるな」と思えていました*8「pinkie」は、正に『Butterflies』以降の、この「“いなくなった”あなた」系譜の超ど真ん中……「アリア」「記念撮影」との共通点がものすごく多い曲で、今ふたたび取り上げられるには最高のタイミングと言えたからです。

そして実際に、ライブツアーでは「記念撮影」に続けて全日で演奏されました。


あの日、あの時、僕ら二人はこれほどにも近くで並び立っていたけれどーー。どうしてか踏み込めずに、触れられなかったその後悔。<そして今/想像じゃない未来に立って>。かつて辿ってきたはずの過去がこれほどにも眩しく、はかなく、「いま」の私を砕くほどに責め立て続けている……。最後の一節はこうです。<終わる魔法の外に向けて//今僕がいる未来に向けて>。そして、「pinkie」の冒頭はこうです。<未来の私が笑っていなくても あなたとの今を覚えてて欲しい>――。

pinkie

pinkie

  • provided courtesy of iTunes

「pinkie」は、現在140曲ほどあるBUMP OF CHICKENの楽曲の中でも歌詞解釈が特に難しい作品の一つです。一人称が最後まで定まらず、時系列も入り組んでいて、どの言葉が誰に向けられているのかがはっきりとしません。ところが「記念撮影」と続けて演奏されることで、不思議と歌詞の間に見えてくるものがあります。<滲んでも消えない ひとり見た桜/眠りの入り口で 手を繋いで見てる>……かつて「一緒に桜を見た」人とは誰か? いまは眠りの入り口でしか手を繋ぐことが出来ない存在とは誰か? <あなたのためとは 言えないけれど/あなた一人が聴いてくれたら もうそれでいい>。先ほどの「記念撮影」で唄われた<今僕がいる未来に向けて>届けられた<言葉に直せない全て>は、<言葉も心も超えて><ささやかな響き>になって、<さよならの向こうへ>!!

そうだ。「さよならの向こうへ」“今ここにいない”あなたへの物語は、こうして繋がって、「さよならの向こうへ」!!

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このフレーズが、4曲目・5曲目と繋いできたテーマを、「記念撮影」「pinkie」の2曲にわたって(あたかも一つの楽曲の第1楽章・第2楽章であるかのように!)ひとつの物語として描き出し、大きな景色を見せてゆくのです。

そして、最後。8曲目に選ばれていたのは「友達の唄」「花の名」。どちらも、ここまで見てきた楽曲のテーマをさらに大きなスケールで、より俯瞰的に描いている内容になっています。「友達の唄」では、ヒトの一生のごくごく一瞬だけで出会い、知り、そして結び合ったふたりの想いが、実はちゃんと届き合っていたことで一つのカタルシスを迎えるストーリー。<そうかあなたは こんなに側に どんな暗闇だろうと 飛んでいける>。この想いに、相手はこう返します。<忘れないよ また会えるまで 心の奥 君がいた場所/そこで僕と 笑っている事 教えてあげたいから><ずっと友達でしょう>


「記念撮影」「pinkie」でひとり不確かながらも信じようとしていたことが、ここでは相手に届いていて、より力強く、確信的に、そして感動的なクライマックスとなって物語は終わりを迎えます。そして「花の名」も、こちらは二人称ではありませんが内容はほぼ同様です。今はここにいない(これからいなくなる)あなたへ、<一緒に見た空を忘れても 一緒にいた事は忘れない><いつか 涙や笑顔を 忘れた時(「記念撮影」「pinkie」で描かれているような状況)だけ/思い出して下さい><あなただけに 会いたい人がいる>4・5曲目で提示され、6・7曲目で迷いながらも前を向くように描かれたテーマが、この8曲目で力強く肯定され、クライマックスを迎える構成ーー。

こうなると、ツアー途中からセットリストに加わったスノースマイルが、なぜアンコールではなく8曲目に唐突に挿入されたのかも読み解けます。このスノースマイルですら、かつて一緒にいた「君」に向けて、イマの時間から<君に出会えて 本当に良かった>と伝えるための唄で……。<僕の右ポケットに しまってた思い出は/やっぱりしまって歩くよ//君の居ない道を>。一瞬、悲壮感のある言葉にも感じられるかもしれませんが、ここに続く音楽はそれすらも包み込むように、ラララ、と大団円を迎えてゆきます。4曲目から描き出していた物語が、ここに、寂しく、優しく、幕を降ろすのです。


特別なツアーの終わりに――ファンが指摘した「PATHFINDER」ふたつのトリビア

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実に5曲にも渡って、日替わりで内容を入れ替えながらも、まるでひとつのストーリーを描き出すようにセットリストを組み、奏で、歌われるーー。これはBUMP OF CHICKENのライブ史上、紛れもなく初の試みだったと言えるでしょう。これらテーマ的に統一感のある内容(この曲順に演奏されることでフォーカスされるテーマ)が、さながらコンボが決まっていくかのように鑑賞者の心に突き刺さりました。歌われている内容への感受性が強い方ほど、今回のツアーは「泣けて」しまうものだったのではないでしょうか。

これまでバンプは、このような“楽曲の順番で決まっていくコンボ”を、主にオリジナルアルバムで展開させていました。それこそ『ユグドラシル』の「同じドアをくぐれたら」「車輪の唄」スノースマイルや、『RAY』の「Smile」「firefly」など……。今回、バンプがアーティストとして持つこれらの大きな武器を、比較的雑多な曲順が多かったライブで初めて導入したのです。そしてこれは、アルバムツアーではないからこそ実現した、過去のライブとしては非常に自由度の高いものでした。この後のバンプにおいても、もしかするとなかなか見ることが出来ないかもしれない、非常に貴重な内容だったと言えるでしょう。もしかすると「PATHFINDER」というツアー自体が、バンプにとっては、形を変えた「ニューアルバム」だったのかもしれません

……最後に、トリビアを。私自身がツアーに参加したのは2回だったため、ここからは他の方のご意見を引用してしまう形なのですが、個人的に見逃せない2つのご指摘をここで紹介させて頂きます。

ツアー1曲目「GO」のイントロでは、藤原がアドリブ調で「オーオオオー」と歌う箇所があるのですが(これ自体は『BFLY』ツアー等でも披露)、仙台公演、神戸公演二日目*9ではその部分が「ダニーボーイ」のメロディに差し替えられていたというご指摘です(神戸2日目は参加していたのですが気づかなかった……どうして気づいたんだ笑)。「ダニーボーイ」は、アイルランド*10の伝統的な民謡に多数つけられている歌詞の中でも最も有名なもので、「“いなくなった”あなた」への想いを届ける(あれ、上で書いたような?)という内容。宮城公演で使われた会場・セキスイハイムスーパーアリーナ東日本大震災で3か月間にわたり遺体安置所として使用された経緯があり、神戸公演二日目は阪神・淡路大震災からちょうど23年目の2018年1月17日に行われました。決して言葉には出さないものの、バンドの無言の鎮魂の想いが、この「GO」のイントロには込められていたのではないでしょうか?

ふたつめのトリビアです。

ファンにとっては最早恒例となっている、ライブ中の藤原の「歌詞変え」。今回は半年間にわたるツアーだったこともあり、その歌詞変えの内容が後半にかけてどんどん変化してゆきました。その歌詞の変遷に藤原の内部で起きている変化を考察した、見事なご指摘です。特に「流星群」は、ツアー後半からアンコールのラインナップに加わった楽曲で、前述した通り「“いなくなった”あなた」へのテーマ(がフィクション化していった経緯)と共鳴の深い楽曲。ライブでは、その歌詞の最後に「行かなきゃ」というフレーズがほぼ全公演で追加されました。この「(愛しい君を置いて、ここではないどこかへ)行かなければいけない」という表現は、『RAY』以降の藤原の創作ではほとんど出てきていないモチーフで、正に「PATHFINDERを通じて新たに出てきた」次のテーマなのではと感じさせられます。さいたま公演終盤で披露され、ツアー後第一弾新曲となった「Spica」の歌詞の終わりにも、<行ってきます>という歌詞が使われています。既に次のフェーズへ移りかけている藤原の創作世界。これからのバンドの表現も、本当に、楽しみです。

ブログ記事の前半では、「PATHFINDER」ツアーもうひとつのキモである「セットリスト」以外の革新点について触れております。

リボン

リボン

 
アンサー

アンサー

 
記念撮影

記念撮影

 

 

*1:2004年に発生した新潟県中越地震の直後に「MY PEGASUS」新潟公演を迎えて以来、バンドは新潟公演でサプライズを用意する傾向があります。

*2:お客さんがなかなか帰らず熱狂の中でアンコールが叫ばれ、曲目もその場で決められたといいます。

*3:FLAME VEIN』~『THE LIVING DEAD』4曲、En3曲。『jupiter』~『ユグドラシル』5曲、En4曲。『orbital period』~『COSMONAUT』8曲、En2曲。『RAY』~『Butterflies』8曲、En1曲。それ以降4曲、En1曲。

*4:作曲時期的にも、正に『COSMONAUT』から『RAY』へ橋をかける楽曲になりましたね。

*5:タイアップの都合上、この4曲は短期間で集中的に作詞されたといいます。

*6:「記念撮影」は、そのタイトルの不思議な共通点も相まって、まるで今の藤原が天体観測をもう一度書いたような内容にも感じられます。

*7:公開されていたライブリハの写真の中に、増川のエフェクターが映されていて、そこにちいさーく「pin…」の文字が表示されていたため。気づいた方すごい!

*8:直前に自分のセットリスト予想は書き終えてしまっていましたが……。

*9:一部指摘では福岡公演でも披露があった?

*10:アイルランドは、藤原が人生初の海外旅行の行き先に選んだことでも知られ、また精神的にも音楽性的にも、バンドと非常に縁が深い国です(個人的には、あの「DANNY」の題はこの「Danny Boy」から取られたのだと勝手に思っています)。

【前編】空前絶後のライブツアー「PATHFINDER」とは、何だったのか。①

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ファンからの賞賛を浴びながら、16年半ぶりとなる非レコ発ライブツアー「PATHFINDER」が幕を閉じました。今回は、この空前のライブツアーがなぜ「特別」であったのかを、バンプのこれまでの現状を打破したツアー」であったこと、そして「セットリストで『物語』を描き出した秀逸な内容」であったこと、の2つに別けて書いてゆきます。今回は、その前編です。

※注意:「PATHFINDER」ツアーのネタバレを含みます


バンドが選んだ大きな変化ーー「QVC」から「WILLPOLIS」、そして「BFLY」へ。


まず「PATHFINDER」は、「ここ数年間のマンネリから脱却したライブツアー」でした。話は約7年前、COSMONAUTというアルバムのリリースにまで遡ります。『COSMONAUT』はメンバーが30代になってから初めてリリースされたアルバムで、全体的にこれまでの作風よりも落ち着いた、「大人な」雰囲気・余裕のある内容になっていました。メンバーにとって非常に手ごたえのある作品だったようで、後のインタビューでも本作で自信をつけた旨の発言を残しています。また『COSMONAUT』とその後のシングルを引っさげたライブツアー「GOLD GLIDER TOUR」も非常に充実した内容となり、この模様を収めた初のライブDVDもリリースされました。バンドにとって満足度の高い結果が残る形となっただけに、ここから先の展開は、「バンドとしての、次の、さらなる挑戦」を見据えたものになったと思われます。


バンドが大きな変化を遂げて行くのは、ここからです。2013年7月に初のベストアルバムをリリース。同じ月にはメンバーの地元である千葉・QVCマリンフィールドでバンド初のスタジアムライブが敢行されます。この「QVC」ライブは、今後数年のバンドの方向性を決定づける非常に大きな転換点となりました。わずか90分間の公演に、バンドにとって新たな試みが数多く取り入れられたからです。当時最先端だった光るリストバンド・ザイロバンドの無料配布や、最先端の照明技術・映像を導入したド派手なライブ演出。そしてメンバーが着る衣装も新調され、ミリタリー風のユニフォームが新たに作られました。この日から導入されたライブの要素は、その後のツアー「WILLPOLIS」、「WILLPOLIS2014」、さらにスタジアムツアー「BFLY」まで続くことになります(一部ライブを除く)。QVCライブの直前まで行われていた「GOLD GLIDER TOUR」から方向転換した、いわば視覚的にも「魅せる」ためのライブ活動がここからスタートしたのです。


これらのライブや活動は、実は世界的な人気を持つロックバンド・COLDPLAYを一部意識したものになっています。ミリタリー風の衣装や、蛍光色を取り入れたライブ演出――特に光るリストバンドは、正にCOLDPLAYがライブで導入したものと全く同じものが使われたのです(たぶん、メジャーアーティストでこれを取り入れたのはバンプが日本で初めて)。当時制作されたプロモーション・ビデオ(特に「虹を待つ人」「Charlie Brown」)も見比べると、驚くほどの共通点が素人目にでも見つかると思います(厳密には、2012年のシングル「firefly」のMVからCOLDPLAYへのオマージュは始まっています)。


実はこれには理由があって、もともとCOLDPLAYは、本国では「いい曲はたくさん書いているが、若いオタクの(ナードの)子が楽しんでいるイメージが強く、メジャー感が薄かった」らしいのです。COLDPLAYのメンバーは「コールドプレイを聞いているのが恥ずかしい」と思われてしまうファンに心苦しさを感じ、ある時から非常にメジャーを意識した活動へと方向転換。音楽性は正常進化させつつもライブやアルバムなどに最先端技術を導入、商業的にも大きな飛躍と成功を収め、世間のイメージを一新した経緯があるのです。こう書くのはちょっとアレですが、こうしたイメージはBUMP OF CHICKENにも少なからずあるものでしょう。「バンドの本質はそのままに、脱皮し、より広いリスナーを獲得するための」新たな道筋として、バンドはこの海外の先輩を意識してみたのではないでしょうか。


バンドにもたらされた変化は、こうしたライブだけに留まりませんでした。QVCライブの翌年春にリリースされたアルバムRAYは映画監督・山崎貴がジャケットデザインを手がけ、ライブで展開した世界観をそのままCD作品にも導入した形となりました。リードナンバー「ray」ではスタッフサイドから初音ミクとのコラボレーションが提案され、これも高い完成度と共に実現し、大きな話題を振りまきました。『RAY』リリースツアーでは山崎貴のほか、漫画家・井上雄彦、写真家・蜷川実花、タイアップ先のファイナルファンタジー、そして初音ミクとのライブ同時共演を含む多くの外部作家とコラボレート。比較的「コラボ」に消極的だったバンドが、これまでの殻を破り、数多くの新たな取り組みを始めたのです。


そしてこの「積極的なメインストリームへの露出」は、実際に大きな成功を呼び寄せます。QVC後にリリースしたアルバム『RAY』Butterfliesはいずれも好調なセールスを記録し、特に『Butterflies』は初週の売上でもこの2枚を上回りました。CD不況と呼ばれて久しい中、前作より売上を伸ばしたのは驚異的と言えます。またライブの動員も右肩上がりとなり、前述の通り『RAY』ツアーでは東京ドームを満席に。合間の単発ライブでは全国のライブビューイングでさらにもう五万人を同時動員。『Butterfiles』ツアーでは全会場がスタジアム規模となり、日本で最大規模のライブ会場である日産スタジアム2DAYSライブも実現させました。


この、「QVCライブからスタジアムツアー『BFLY』」までの季節は、バンドにとって多忙な時期となりました。時系列で並べると、バンドはほぼ休みなしで稼働した形になります。制作期間に1年以上を費やしていた、『COSMONAUT』期とは比較にならないほどのハード・スケジュールです。

2013.07. ベストアルバム『BUMP OF CHICKEN I』『BUMP OF CHICKEN II』リリース

2013.07. 「ベストアルバム発売記念ライブ」at QVC マリンフィールド

2013.08. シングル「虹を待つ人」リリース

2013.09-10. ツアー「WILLPOLIS」開催

2014.03. アルバム『RAY』リリース。(本来は1月発売予定だったが、延期された)

2014.04-07. ツアー「WILLPOLIS 2014」開催

2014.08. シングル「You were here」リリース

2014.11. シングル「ファイター」「パレード」リリース

2014.12. 映画『BUMP OF CHICKEN "WILLPOLIS 2014" 劇場版』公開

2015.02. DVD/BD『BUMP OF CHICKEN WILLPOLIS 2014』リリース

2015.04. CDシングル『Hello,world!/コロニー』リリース

2015.07-08. 「Special Live 2015」開催

(2015年を通じてアルバムレコーディング)

2015.11. NHK「SONGS」出演

2015.12. NHK紅白歌合戦」出演

2016.02. アルバム『Butterflies』リリース

2016.04-07. ツアー「BFLY」開催……

バンドや、バンドを支えるチーム内部で、どのような変化が起きたのかは判りませんがーー。この『BFLY』ツアー終結後、つまり今に至るまでですが、バンドは再び活動の方向転換を迎えることとなります

COSMONAUT

COSMONAUT

 
Butterflies(通常盤)

Butterflies(通常盤)

 

再び「バンドのペース」へーー『20』、「流れ星の正体」、そして「リボン」生配信の手ごたえ。


転換点は、ひとつのライブでした。

2016年。これまで若干曖昧にされていた「バンドの結成年月日」「バンド名をBUMP OF CHICKENとし、4人だけで最初にステージに立ったライブの日」、つまり1996年2月11日と定められ、その20年後となる2016年2月11日に地元・千葉で1本限りのスペシャル・ライブが行われたのです。このライブはファンに衝撃を与えるほどのインパクがありました。QVCライブ以降に恒例化していたド派手なライブ演出は一切なし。オープニング映像もなく、中央にはスクリーンすら立ちませんでした。メンバーはミリタリー衣装ではなく、Tシャツのみでフラリとステージに立ち、ライブ終盤に披露することが多かった「天体観測」を1曲目からぶちかましたのです。その後のセットリストも、「QVC」以降ほとんど演奏されていなかった……いや、ここ10年は演奏すらされていなかったレアな楽曲を幅広い年代からセレクトしました。そのどれもが、単に珍しいだけでなく、ファンにとっても思い入れの深いアルバム楽曲・シングル楽曲ばかり。ここ数年で固定化していたライブセットリストを一気に新鮮に引き戻す、見事な内容となっていたのです。


この「20周年ライブ」、通称20は、「久々にメンバー4人だけでじっくりと決めたセットリスト」だったといいます。過去数年、ライブの流れや演出などの兼ね合いがありスタッフの意見に耳を傾けセットリストを組んでいたメンバーが、再び自分たち主導でライブ演出を練った結果だったのです。スタジアムツアー『BFLY』はこの後に行われたものでしたが、後にメンバーはインタビューで「『BFLY』ツアーは後悔が残るものがあった」と振り返っています。ライブ本数が少なく、あまり細かな修正を反映出来なかったことがその一因だったようですが……。

BUMP OF CHICKEN 結成20周年記念Special Live 「20」 (通常盤)[Blu-ray]

ここから、試行錯誤が始まります。

明けて2017年1月、藤原が長年雑誌に連載していたミニコーナー「Fujiki」が終了することになり、この最終回のために藤原はひとつの詩を書き上げます。「流れ星の正体」と名付けられたそれは、10年以上に渡りファンとハガキを紙面上で交わし合った年月が濃密に反映された内容でした。バンドはこの曲の弾き語りデモを日付限定で公式サイトに電撃公開。曲が完成してから、非常に僅かな時間で……というスピード感だったといいます。さらに2月10日、「20周年イヤーを締めくくる」として、藤原がこれも書き上げたばかりという新曲「リボン」をスタジオ生中継で1度だけライブ配信することが発表されました。当日、23時45分。唐突に切り替わったカメラはスタジオの中の4人を映し、シンセサイザーも同期も一切使われないシンプルなミドルナンバー「リボン」を披露。約5分の演奏が終わると、メンバーの手書きのメッセージと共にライブ配信はそのまま終了しました。この配信への反響は非常に大きなものでした。


今思えば、この2つの試みの重要なポイントは一致しています。それは、「他のクリエイターを介在させず、バンド自らで発信した」という点です。「QVC」以降のライブや活動では、常にバンドは外部の、特に音楽以外のクリエイターたちとのコラボレーションが重なっていました。それは映像作家であり、ライブ演出をするメディアクリエイターであり、タイアップ先のアニメやゲーム、実写映画などで……。しかし『20』や「流れ星の正体」、「リボン」の生配信はそうではない*1久々にメンバー4人が、メンバーだけの手の届く範囲でファンに「直送」した内容だったのです。『BFLY』に未消化感を残し、主体性が高かった『20』に充実感覚えたメンバーが、次のバンドとしての表現をーー今度は外部の優れたクリエイターと、ではなく、4人だけでまずは出来ることーーを模索し始めた、その第一歩の試みが「流れ星の正体」デモ公開と、「リボン」1曲限りの生配信だったのではないでしょうか

リボン


そして『PATHFINDER』ーーマンネリの脱却、メンバー主体のライブが完成。


『BFLY』以降、バンドのペースは再び、以前のようなやや緩やかなものへと戻っています。

2016.08. シングル「アリア」リリース

2016.12. シングル「アンサー」、DVD/BD『BUMP OF CHICKEN STADIUM TOUR 2016 “BFLY” NISSAN STADIUM 2016/7/16,17』リリース

2017.02. 「リボン」スタジオライブ配信

2017.05. シングル「リボン」リリース

2017.07. シングル「記念撮影」リリース

2017.09-2018.03. ツアー「PATHFINDER」開催

こうして見ていくと「PATHFINDER」は、「これまでの経験値は積み上げつつ、バンドメンバー4人へと再び主体を戻したライブツアー」であることが鮮明となります。これらを踏まえた上で、「PATHFINDER」ツアーの特徴へと目を向けてゆきましょう。

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まず、バンドは「QVC」以降続けていたライブ演出をいくつか取りやめました。4人お揃いのミリタリー衣装はなし。それまで続いていたCOLDPLAY的な蛍光色をメインに据えるのをやめ、代わりにモノトーンの、シンプルな白と黒をライブの新たなメインカラーへと取り入れます。恒例のオープニング映像は、派手でカラフルなCGを排除し、代わりにドットノイズと白い光のみで構成された非常に抽象的なものを用意*2。代わりに、流れているライブSEを途中からメンバー自身が演奏してライブの幕を開けるという新しい演出を取り入れました。これも、「別の作家が作った映像でライブをスタートさせる」のではなく、「メンバー自身の演奏で彩り、幕をも開ける」という新たな考え方が読み取れます。藤原は本ツアーで決まって、黒色のシンプルなシャツを着てライブに臨みました。真っ白の光に照らされるメンバー4人に、黒い服を着た藤原の姿は非常に映えていて、『COSMONAUT』期に見せていたような一種の「大人の余裕」をも、その影の中に感じさせるものでした。ここには、「ファン人口を拡大させるために」一種の背伸びをしたバンドの姿ではなく、光に照らし出された、ただ等身大の37歳のバンドメンバーたちが立っていたのです。

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その後使われるライブのバック映像も、決して派手すぎるものではなく、あくまで音楽を引き立てるためのシンプルなものが用意されました(むしろ「記念撮影」のように、ツアーが進むにつれてさらにシンプルな映像に修正されたものすらありました)。演出もセットリストが固定化されないよう、比較的入れ替えに対応できる柔軟性のあるものに変化しました。代わりにライブの「華」となったのは、メンバー自身です。派手な花火や巨大ボールが投入される代わりに、藤原はハンドマイクを手にとり、ファンの前へ進み出ながら歌いました。ギター、ベースはワイヤレス化され、メンバーがさまざまな場面で花道に駆けてゆきライブを盛り上げました。終盤で演奏される「fire sign」ではドラム以外のソロパートも用意。会場も比較的小さいものがセレクトされ、公演数はここ10年で最大規模となりました。メンバーとファンとの距離が、さらに近いものとなっていたのです

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さらに各公演では、毎会場ごとに異なるサプライズが用意されました。クリスマスやハロウィン期間限定のツアーグッズ販売、その日だけ演奏されたレア楽曲や、歌詞の変更ーー。同じライブは二度とない……これは当たり前のことでもあるのですが、本ツアーではその「一期一会」感がこれまで以上に意識されたものでした。そしてそれらは、いずれもメンバーや、メンバーを支える小さなクリエイティブ・チームでどうにかできる、非常に手作り感のあるものだったと言えるでしょう。(名目上の)千秋楽となった埼玉公演では、完全未発表の新曲が「その場の思い付き」で急遽披露すらされました。バンプほどの規模となったミュージシャンで、ここまで柔軟な対応が可能であるということーー。約1年ほど前から始まった次の試みは、何より「バンドの性格とよく合って」いて、見事「PATHFINDER」ツアーによって結実したと言えるでしょう。

そしてそれは、QVC」以降に(大きな収穫を得つつも)一種のマンネリ化を感じさせていた、BUMP OF CHICKENのライブそのものを、自らの手で見事に一新するものでした

外部のクリエイターの手を借りるのではなく、再び「自分たち自身で」発信し、ライブの主役となることーー。「PATHFINDER」は、それがはっきりと意識されたライブツアーだったのです。

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次回は、「PATHFINDER」ツアーもうひとつのキモである「セットリスト」について触れてゆきます。

リボン

リボン

 
アンサー

アンサー

 
記念撮影

記念撮影

 

 

*1:もちろん、「リボン」生配信にも映像スタッフは連れ添っています

*2:ちなみにこれを手掛けているのは、『BFLY』でも演出した映像作家の東市篤憲氏です。どちらも同じクリエイターの手によるもの、というのは、逆に言えば『BFLY』以前のライブ構成はメンバーの意向が大きかったことの裏返しでもあるでしょう