地球飛行士からの手紙

音楽に関するブログです。

バンプ“歌い出し選手権”を開催します。

 

ヒロHB(一日遅れ)。さて、日産公演のBDも出ましたし、やっと『アンサー』も配信リリースされたし、ということで皆さんいかがお過ごしでしょうか? 最後の記事がもう3か月前ですが、そういうブログなので何卒ご容赦頂ければ幸いです。

今月4日に放送された地上波番組『関ジャム 完全燃SHOW』で、あの槇原敬之が「素晴らしい歌詞だ」とBUMP OF CHICKEN「友達の唄」を紹介し、iTunesランキングで「友達の唄」が一時総合ランキング20位まで跳ね上がる大反響を巻き起こしました。マッキーは、特に歌い出しの歌詞を褒めちぎっていました。ここですね。

<あなたが大きくなるまでに 雨の日なんて何度もある
その中の一度は一緒に濡れた事 忘れちゃうかな>

……藤原の歌詞の特徴は、実はよく練られた歌い出しにもあります。曲の世界観に引き込み、リスナーとの距離をつめ、のっけからインパクトで刺しにかかってくる――今回は、そんなバンプの印象的な“歌い出し”を集めてみました。というか羅列しましたので、どうぞ最後までお楽しみください。


個人的に特に好きな歌い出し・5選

まずはワタシ的ベスト・オブ・歌い出し、トップ5から。

<そしてその身をどうするんだ>

何をどう受けて“そして”なんだよ!そしてにかかっている言葉がないよ! この、ぶった切られるように始まる歌詞が、さながら物語の途中からいきなり始まるようなドラマチックさを演出しているのです。

<目を閉じたその中に 見えた 微かな眩しさを
掴み取ろうとした 愚かなドリーマー>

ノリノリで始まるこの曲の、最初のフレーズが、まず、「目を閉じた」。ご機嫌なイントロにしては、ちょっと暗い言葉だなぁ、と思わせられます。それが実はこの曲の本質そのものにもなっているのです。<目を閉じた>中の世界、は、キャリアを通じてよく描かれるモチーフですが、こんなにもその「愚か」さを一瞬で言い切ってるのは、後にも先にもこれだけかな。

<自分にひとつウソをついた 「まだ頑張れる」ってウソをついた
ところがウソは本当になった 「まだ頑張れる」って唄ってた
ずっとそうやって ここまで来た BUMP OF CHICKEN

ある意味、この1センテンスだけで2曲目の「ガラスのブルース」になっている

<簡単な事なのに どうして言えないんだろう
言えない事なのに どうして伝わるんだろう>

藤原基央というソングライターが、作詞家としての、ある種の頂点に到達したときの名・歌い出し。奇しくも小田和正がテレビ番組でカヴァーしたことから、「ああそうか、これは小田和正的な成熟だ!」と世間に知らしめた1曲です。藤原がこれを作詞したときは……ガラケーのメモ機能に、この曲の歌詞を少しづつメモしていったとか。唄の歌詞は、必ずしも字面そのものに力がある必要はないと個人的には思っていますが(唄であればいいからね)、この2行については、文字として睨みながら書いたその経緯があるからか、活字としての詩のパワーの強さをまざまざと見せつけられる好例だと思います。

 <あんなに夢中で追いかけたのが 嘘みたいだけど本当の今
大切にしてきたけど 実はただ そう思い込んでいただけ>

いきなりリスナーに殴りかかって来る藤原のファイト・スタイルを象徴するような歌い出し。的確かつ正確に、容赦なく相手の急所を狙ってくる。出会い頭の一突き! ウッ、バタン、気絶。そうして相手が弱ったところで、あんな歌詞に繋げるのだから、本当に手段を選ばないバンドだなと思います。


たった1行で世界観にひき込む

「最初の歌詞が印象的だと、その後もスムーズに聴くことが出来る」と、マッキーは番組の中で語っていました。藤原は、まず「自分の曲の世界観」へ引き込むために、色々な仕掛けを施してきているので、この「世界観の提示」がうまい例から。

<歩くのが下手って気付いた>

最新曲。そんなキラキラサウンドなイントロの後に! かなしいこと言わないで!!

<お尋ねします この辺りで ついさっき…>

いきなり“お尋ね”されてしまった。聴く者はたぶん、「何、何」と、まず身構え、この後の唄にも、自然に耳を傾けようとするでしょう。

 <疲れたら ちょっとさ そこに座って話そうか>

ふわっと心に侵入してくる藤原のウィスパーな歌声も相まって、非常に印象的な歌い出し。ここのポイントは、<ちょっとさ>、です。これがあるとないとで没入度がまるで変わります。実際に抜いて読んでみるとよく解りますね。実に何気ない工夫なのですが……。すげえなぁ、どうしたらこんな仕掛けを思いつけるんだろう。天才なのかな?

<健康な体があればいい 大人になって願う事>

アラサー以上の心にまっすぐ届く、「わっかるわぁ~~」という共感の叫びが聞こえてきそうな名フレーズ。「かつてバンプが好きだった元・10代へ」届けるような、この曲を象徴する歌い出し。この時点でリスナーは、いきなりこの曲の味方です。

<寂しがりライオン 吊り橋を渡る>

<週末の大通りを 黒猫が歩く 御自慢の鍵尻尾を水平に 威風堂々と>

どちらも、こういう曲をこれから歌いますまず主人公はこいつです。と1行目から宣言しています。さらにいえばこういう性格です、いまこいつの周囲はこんな状況です……までもがあっという間に説明され、よりリスナーが聴きたい「物語」へと、最短距離で到達するように仕上げられています。そうしてるうちに、主人公が動物だ、という世界観はもうリスナーにすんなり飲み込まれてしまっているのです。まさに電光石火の人物紹介。こうなるともう小説の書きかた講座みたいです。これは歌詞の話です

<冬が寒くって 本当に良かった>

この後に続く歌詞を思い出すと壁を殴りたくなる衝動にかられますが(ウソウソ)、まず「えっ?」と思わせるような歌い出しを、藤原は本当に追及しているのだと思わせられます。何気に、登場人物のセリフになっていることが後でわかる構造なのも見事ですね。


え?何言ってるの??

HAPPY

ひとつ前に続いて、リスナーに「えっ?」と思わせる「歌い出しのインパクト」をさらに追求している例。ここまでくると、冷静に考えれば「何言ってるんだい……」と思わせられるようなフレーズも登場してきます。

<ねぇ 優しさってなんだと思う>

エエッ!急にそんなこと聞かれても……。ドキッとさせるような問いかけ。というか、そもそもリスナーに向けて、いきなり「ねぇ」、って……。そのある種なれなれしい態度が、イヤフォンの近くで囁くような歌声も合いまって、一気にこの曲のリスナーを、藤原のすぐ隣にまで座らせにかかるのです。

<羽根の無い生き物が飛べたのは 羽根が無かったから>

??」「そ、そりゃそうだろうけど?」「……いや、あれ、なんだそれ?」。“例え”にしてはちょっと高度すぎるものを冒頭からぶっ込む藤原節。ところで“藤原節”って、どこかの地方のお囃子にありそうな感じがしませんか? ああそうですか……。この歌い出しは歌声も素晴らしい。ひんやりと冷たく空気が薄い感じで、さながら、成層圏からカメラがスタートするかのようです。

<安心すると 不安になるね>

6文字目で、もう5文字目までを否定しにかかってきやがる! 全く油断ならない!!

<未来の私が笑ってなくても あなたとの今を覚えてて欲しい>

一人称がどれだか判りません。個人的には、ここまでくると少々難しすぎるような気もしますが……。こういう曲って、初めて聴いてから何年も経ったあとで、突然わけもなく歌詞の意味に気づかされたりすることがあります。藤原はそれを、作詞時に「意図的に隠している」「仕掛けている」と発言しています。全部、わざとなのです。

<君に嫌われた君の 沈黙が聴こえた>

「沈黙が、聴こえる」!? この曲では、そんな冒頭のフレーズに一瞬引っかかる余裕すらなく、この後もつづく歌詞と音楽のヴィジュアルがどんどん耳から流し込まれ、聴く者を「バンプの海」にまでダイブさせてゆきます。だからここは、いわば過激な準備運動。プールの授業でまず最初に浴びる、つめたいあのシャワー、みたい。

<君と寂しさは きっと一緒に現れた>

こういう感じにバンプに鍛えられていると、もうこのくらいの「!?」では驚きすら感じずに、ただただ「あぁ~それは切ないなぁ……」と思わせてくれます。バンプのリスナーは往々にしてMです

<僕はかさぶた>

鍛えられていても、やっぱり限度はあるかもしれない。でも、名曲……。


瑞々しくドラマチックなワンフレーズ

ゼロ(通常盤)

もしかすると世間一般の認知としては、むしろこちらかもしれない。未だにサブカルチャーへ多大なインスピレーションを与え続ける、正にバンプ・オブ・チキン的ドラマチズムに溢れた歌い出しを一気にどうぞ。

<人間という仕事を与えられて どれくらいだ>

 「人間という仕事」、ザ・パワーワード。このすぐ後の歌詞も見事です。藤原基央の一種の“辛辣さ”は、このバンドの表向きなキーワードのひとつです。

<迷子の足音消えた 代わりに祈りの唄を
そこで炎になるのだろう 続く者の灯火に>

どっしりとしたサウンド、描かれる重厚なテーマにも負けない、この曲の「ふつうじゃなさ」をしっかりと提示し支える歌い出しです。

<虹を作ってた 手を伸ばしたら 消えてった
ブリキのジョウロをぶらさげて 立ち尽くした 昼下がり>

この目に浮かぶヴィジュアルの瑞々しさよ。これだけで、pixivのランキング上位に行けそうな絵が生まれそうです。「ブリキのジョウロ」という小道具の、清潔でひんやりとした感じ。自分の指でコツンと叩いてもいないのにシズル感すら含ませられています

<月が明かりを忘れた日 冷たいその手をぎゅっとして
地球の影に飛び込んで 見えない笑顔を見ていた>

ああ! バンプって、何てロマンチックなんだろう。一フレーズずつに、藤原の得意で特異な武器がしっかり使われているので、ここだけジンワリ読み込んでみてもよいと思います。自由自在なスケール感、歯の浮くような例えことば。

 <電車の窓は ガタガタ鳴く>

字面ではそれほどインパクトはありませんが、この曲はここの歌声が素晴らしい。か細い、鳴くようなハイトーンで、静謐な雰囲気を見事に演出します。マッキーも言っていましたが、歌詞に加えて歌声もまた歌い出しのインパクトを大きく決めています。これについては曲名も素晴らしく、そんな電車の<窓>が<ガタガタ鳴く>ってどういうこっちゃねん、という、聞こえないはずの音(効果音)にまで一気に想い馳せてしまいます。正にイマジネーションの洪水です。あ、ところでここまで曲名って一切書いてきてないですけど、まったく問題なくついてこれてますよね?


いかがでしたでしょうか? ここまで24曲ほどピックアップしたのですが、まだまだぜんぜん語り尽せていない気持ちでいっぱいです。皆さんにとっての、「 #バンプ歌い出し選手権 」ノミネートはどんな曲ですか? こんな感じに、歌詞もまた、ぜひ味わい深く鑑賞してみると楽しいのではないかと思います。ちなみにバンプサビ前選手権」とか、バンプ最後の2行~4行選手権」とかも同様に開催可能なので、どなたか僕の代わりにやって下さい(他力本願)。

ではまた!


引用は、記事冒頭から順に、友達の唄、オンリー ロンリー グローリー、sailing day、バトルクライ、花の名、morning glow、GO、Opening、メロディーフラッグ、HAPPY、ダンデライオン、K、スノースマイル、ひとりごと、beautiful glider、時空かくれんぼ、pinkie、メーデー、グッドラック、かさぶたぶたぶ、ギルド、ゼロ、ハルジオン、流星群、銀河鉄道(全作詞:藤原基央)。