地球飛行士からの手紙

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【後編】空前絶後のライブツアー「PATHFINDER」とは、何だったのか。②

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ファンからの賞賛を浴びながら、16年半ぶりとなる非レコ発ライブツアー「PATHFINDER」が幕を閉じました。今回は、この空前のライブツアーがなぜ「特別」であったのかを、バンプのこれまでの現状を打破したツアー」であったこと、そして「セットリストで『物語』を描き出した秀逸な内容」であったこと、の2つに別けて書いてゆきます。今回は、その後編です。

※注意:「PATHFINDER」ツアーのネタバレを含みます


多彩な全40曲――異例尽くしのセットリスト、その特徴は?

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まずは、本「PATHFINDER」ツアーの基本セットリストをご覧いただきましょう。

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本編は、生演奏されたオープニングSEをのぞくと28曲から16曲のセレクト。アンコールは最後の3公演で演奏された「Spica」(上表では「さいたま新曲」)をのぞくと7曲からのシャッフル。そして新潟公演*1のみで12曲目に突然演奏された「時空かくれんぼ」、ライブハウス大阪公演のアンコールで披露された「flyby」*2、そしてツアー千秋楽では定番となる「DANNY」――など、一度だけ演奏された曲も計4曲。

ツアー通じて演奏されたのは40曲(直井が単独で披露したビヨンセのカヴァー「XO」を加えると41曲)で、「GOLD GLIDER TOUR」や「WILLPOLIS 2014」をわずかに上回り、ツアー史上過去最多の曲数となりました。また「SURF&PORKIN」以来16年半ぶりの非レコ発ツアーということもあり、過去全てのアルバムから幅広く楽曲が選ばれています*3


特徴的なのは、まず最初の三曲。ここ数年ライブの「見せどころ」で使われていた天体観測「ray」を早々に2曲目、3曲目で放出。ヤマ場をいきなり頭に持ってくる度肝を抜く選曲を見せました(rayと天体観測が本編で続けて演奏されたのは史上初)。

そしてライブ後半の12曲目~15曲目は、(「ラフ・メイカー」をのぞき)観客がコーラスするパートがある楽曲で固められました。ここ数年のツアーでは後半にも「箸休め」となるミドルナンバーを1曲は挟む傾向があったため、この「盛り上げ」重視のライブ構成は、後述しますが前半パートとのよい対比になっています。本編最終曲は「リボン」。静かなミドルナンバーでライブ本編を終えるツアーは、過去にはなかったものでした。

そして、最も語らなければならないのは――。「PATHFINDER」ツアー最大の特徴であり、また事実上のハイライトであったのが――4曲目から8曲目「楽曲の流れ」で大きなストーリーを描き出した、バンプ史上空前のライブ構成について、です。


「“いなくなった”あなた」へ。――藤原楽曲の新たなメインモチーフ

FLAME VEIN

再び、すこしだけ時間を巻き戻してみましょう。

BUMP OF CHICKENは1999年に『FLAME VEIN』でデビュー。翌2000年の『THE LIVING DEAD』で、藤原楽曲の大きな特徴となる「物語調の歌詞」、そして「孤独を進む勇気」を歌うテーマ性が確立します。この傾向は2003年発表の最高傑作ロストマンで頂点を迎え、2004年『ユグドラシル』発表でひとつのピリオドに到達します。

2005年プラネタリウムからは、それまでとは違う比較的穏やかな、おおまかに言えば「大切な“あなた”」についての音楽を書く傾向が強まり、2007年「花の名」で一度目のピーク、2010年「宇宙飛行士への手紙」と『COSMONAUT』で事実上の最高点に到達します。2012年、『ユグドラシル』以前の「孤独を進む勇気」「物語調の歌詞」、そして『COSMONAUT』的な「大切な“あなた”へ」の要素が同時に流れ込み、激しく激突する二曲目の傑作「ゼロ」へと集約。藤原の歌詞はここから第四タームへと折り返します。

ゼロ(通常盤)

2014年『RAY』以降、藤原の楽曲に特に強く表れてきた歌詞のモチーフがあります。それは、ざっくり言い表せば「“いなくなった”あなた」についての唄である、というものです。

RAY(通常盤)(予約特典ステッカー無し)

例えば「サザンクロス」での、<どんな今を生きていますか/僕の唄が今聴こえますか>と今ここにいない“あなた”を回想し、呼びかけるような歌詞。また「トーチ」<君といた事をなくさないように/どれだけ離れてもここにある 君がいる>と、いなくなった“君”に約束を作り自身を奮い立たせるストーリー。そして秀作「ray」でも、<お別れした><君><伝えたかった事が きっとあった>としながらも、<ごまかして笑っていくよ/大丈夫だ>と自分や“君”に歌いかける内容になっています。シングル「友達の唄」も、これはタイアップ先の映画からの影響が色濃いですが同じく「お別れする相手」へ想いを伝えるという曲*4「グッドラック」も切実な<さよなら>について歌った曲になっています。

もちろんこれが『RAY』の全てではありませんし、こういったモチーフは過去の曲にも(後述します)あったものですが、ぐっとその傾向が色濃くなり始めたのが、このアルバムからだったと言えます。『RAY』ツアーの最終日にあわせて発表された、そのものズバり「You were here」(直訳で「君はここにいた」)と名付けられた曲では、<また会いたい 会いたいよ/もう会いたい 会いたいよ/君がいるのに いないよ>と極めてストレートな言葉が歌われました。


この後、「君は今ここにいない」「さよなら」、というモチーフが、藤原の中で一種の異変を起こし始めます

2015年秋~2016年春までに発表された4曲、「ファイター」「パレード」「コロニー」「Hello, world!」*5、曲調はそれぞれバラバラなのですが、なぜか歌詞の主人公がどれもボロボロ状態でした。ロストマン」「ゼロ」に連なる大作「ファイター」はまだフィクションの色が濃いものの、<名前のない涙がこぼれて><世界は蜃気楼 揺らいで消えそう><こんなに今生きているのに 嘘みたい>と強烈に沈んだ状態が唄われる「コロニー」<数秒後出会う景色さえも 想像できなくなってしまった><どれが誰 誰が僕><時計に置いていかれる/昨日に食べられる>とちょっと普通ではない焦燥感が焼き込まれた「パレード」<扉開けば 捻じれた昼の夜/昨日どうやって帰った 体だけが確か>とかなりの体調不良状態から音楽が始まる「Hello, world!」の1番……。


これらの、そもそも「私はいまどこにいる」「私は今生きている?」という、これまで見ていた世界が揺らぎ、焦っている、一種の混乱状態が歌われた楽曲たち。「世界との距離感が失われている」状態は、特に「コロニー」で顕著なのですが、「今ここにいない君」との“通信”が、あたかも寸断されてしまったような解釈がとれるとも言えます。また、「パレード」「Hello, world!」では、まるで自分ではない何かによって自分がその場に取り残されてしまい、深い暗い自意識の枠にとらわれながらも、再び世界との距離と自分自身を取り戻すさまが歌われます。

「君は今ここにいない」「さよなら」が直接歌われているわけではないのに、まるでその「さよなら」の一言さえも言えなくなってしまったような困惑と焦りがーー、この時期書かれた曲に、ものすごく顕著に表れていたのです。


この後、そういった混乱状態は、「自分自身は自分を許せなくても、自分が選んだ未来はきっと自分を肯定するのだ」というメッセージを歌った「Butterfly」「GO」を続けて作詞したことで解消されます。ほぼ同じテーマで自意識について歌う「大我慢大会」では一種の余裕(と皮肉)すら見せ、また「ここにいない君」に対しても、「君」といた過去が冷たい石ころから<宝石>になったよ、と語りかける「宝石になった日」が生まれたりもしました。

そして、極めつけの楽曲が誕生します。後に『Butterflise』として結実するアルバム・レコーディングの最後に、「自分ではない何かによって取り残される」将来を示唆しつつも、今この瞬間が未来まで迷わずに歩ませてくれるはずなのだ、とさらに大きな視野でドラマチックに歌った秀作「流星群」が書かれたのです。系譜的には「宇宙飛行士への手紙」のような「君といるイマ」の流れを汲んだものですが、こうして見てくると、「今ここにいない君」という一連のテーマで、あえて時間をすこし巻き戻して書かれたものだという見方が可能になってくるかと思います。


まとめると、『RAY』から顕著になった「いなくなった“あなた”」についてのモチーフは、一旦そのテーマすら失わせるほどの(ノンフィクションに近い書かれ方をして)混乱状態をみせたものの、『Butterflise』制作期の後半にかけて次第に取り戻され、フィクション色の強い「流星群」によって昇華されることとなったわけです。


“君がいない”物語はフィクションへーー「アリア」~「記念撮影」での深化

Butterflies(通常盤)

長いよね……ごめんね……。でも本当にここで書きたいのは、実はこのあとの話だったりして……。

そういうわけで、「君はいまここにいない」というテーマの唄が、フィクション・あるいは物語性が強い内容として書かれた「流星群」。これが契機になったのか、同じような「フィクション色の強い」「今ここにいないあなた」の唄が、その後さらに急増してゆきます


『Butterflies』後の1曲目、2016年夏リリースの「アリア」では、在りし日の(今はもうここにいない)「君」との思い出、後悔、そしてイマにまで繋がる強い想いを(今度はアップテンポで)ドラマチックに描き出しました。「アリア」は『RAY』期の「サザンクロス」「トーチ」に近い内容ですが、中盤に情景描写をはさみ、よりフィクションの色が強くなっているのが特徴です。また2016年秋の「アンサー」では、「ray」に連なる自意識の世界からの肯定や解放感を歌い、かつて「誰かが」「主人公に」贈ったであろう「魔法の言葉」が、今・そして未来までをも指し示してくれているのだ、と歌い上げました。

そして2017年夏の「記念撮影」では、「アリア」からさらにフィクションの色を濃くし、同じく「今ここにいない君」に「イマ」から言葉をかけるという内容になっています*6

記念撮影

まだ1番しか発表されていない2017年初頭「流れ星の正体」ですら、<終わらないパレード/止まったら溺れる>「パレード」「コロニー」期の孤独の混乱を引用しつつも、「僕の空」と「君の空」は違うが(=「今ここに君はいない」)、それでも届いてほしい、この存在が「君の空」に輝いていてほしい、と歌う内容になっています。おそらく未発表の2番以降では、この「君」は「今は(物理空間としては)ここにいないけれど」ということを前提に、歌詞が続くのだと推測すらできます。

こうして読んでゆけば、読んでゆくほど……どれも驚くほどに、同じようなテーマの歌詞ですよね。

なぜ藤原にいま、こんな「モード」が訪れているのかは判りませんが……。

この傾向が、ライブのセットリストでも存分に反映されていたのが、正に今回の「PATIFINDER」ツアーでした


セットリストで描き出した"物語"!ーーPATHFINDERツアーのハイライト

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改めて、「PATHFINDER」ツアー、4曲目~8曲目のセットリストです。

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まずは4曲目から5曲目。前述の通り「トーチ」は、「今ここにいない君」に対して炎を掲げ、思いを叫ぶというエモーショナルな曲。続く「メロディーフラッグ」も、「かつて目印を深く突き刺した」「僕ら」が、時を経て「独りに慣れて」もこのことを「思い出して」くれ!と伝える歌。トーチも、フラッグも、ここに「私」があることを掲げるための“何か”ですよね。この2曲が続けて演奏されると、まるで両方の物語が繋がっているかのように感じられます。また「宇宙飛行士への手紙」は「かつて一緒にはいなかった二人」と「笑いあった過去」が、いつか二人引き裂かれても「未来まで照らしてくれる」と歌う曲。これに続けて「Ever lasting lie」が演奏されると、そうして二人で誓い合った「ひとつの嘘」が、本当に「未来まで」……つまり“最期”まで、二人の焔を照らし続けたことが明らかになって……。あ、なんか、ちょっと、この順番はヤバくないですか……?

Ever Lasting Lie

Ever Lasting Lie

  • provided courtesy of iTunes

 そして、「とっておきの唄」「Ever lasting lie」のちょうど真反対です。後者が「一瞬のような永遠」を歌ったものならば、前者は「永遠のような一瞬」をエモーショナルに歌い上げる名曲。「この日」を間違いなく確かめ合って、ふたりで刻むようにこれからも生きていこう……というテーマの根底は、未来にまで心を思い馳せる「宇宙飛行士への手紙」、そしていつか二人が同じ場所にいなくなっても……その約束は続くんだと力強く肯定する「トーチ」にも通じています。

どの組み合わせで続けて聞いても、あたかも物語が繋がっていくような展開をみせる4~5曲目。このような「大切な“あなた”」との未来にまで約束を作る「イマ」の歌、というテーマをここで提示した上で、セットリストはさらに物語の奥深くまで私たちを連れてゆきます。


必然だった「pinkie」の復活ーー「記念撮影」から「pinkie」、そして「友達の唄」「花の名」

HAPPY

「PATHFINDER」ツアーで、多くのファンに驚きをもたらしたライブ未演奏曲「pinkie」のセットリスト入り。実は一部ファンからはこの曲が*7演奏されるのではないか?という予想がツアー開始の数日前から飛び交っていたのですが、個人的にはその話を聞いた時、素直に「あ、それはありえるな」と思えていました*8「pinkie」は、正に『Butterflies』以降の、この「“いなくなった”あなた」系譜の超ど真ん中……「アリア」「記念撮影」との共通点がものすごく多い曲で、今ふたたび取り上げられるには最高のタイミングと言えたからです。

そして実際に、ライブツアーでは「記念撮影」に続けて全日で演奏されました。


あの日、あの時、僕ら二人はこれほどにも近くで並び立っていたけれどーー。どうしてか踏み込めずに、触れられなかったその後悔。<そして今/想像じゃない未来に立って>。かつて辿ってきたはずの過去がこれほどにも眩しく、はかなく、「いま」の私を砕くほどに責め立て続けている……。最後の一節はこうです。<終わる魔法の外に向けて//今僕がいる未来に向けて>。そして、「pinkie」の冒頭はこうです。<未来の私が笑っていなくても あなたとの今を覚えてて欲しい>――。

pinkie

pinkie

  • provided courtesy of iTunes

「pinkie」は、現在140曲ほどあるBUMP OF CHICKENの楽曲の中でも歌詞解釈が特に難しい作品の一つです。一人称が最後まで定まらず、時系列も入り組んでいて、どの言葉が誰に向けられているのかがはっきりとしません。ところが「記念撮影」と続けて演奏されることで、不思議と歌詞の間に見えてくるものがあります。<滲んでも消えない ひとり見た桜/眠りの入り口で 手を繋いで見てる>……かつて「一緒に桜を見た」人とは誰か? いまは眠りの入り口でしか手を繋ぐことが出来ない存在とは誰か? <あなたのためとは 言えないけれど/あなた一人が聴いてくれたら もうそれでいい>。先ほどの「記念撮影」で唄われた<今僕がいる未来に向けて>届けられた<言葉に直せない全て>は、<言葉も心も超えて><ささやかな響き>になって、<さよならの向こうへ>!!

そうだ。「さよならの向こうへ」“今ここにいない”あなたへの物語は、こうして繋がって、「さよならの向こうへ」!!

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このフレーズが、4曲目・5曲目と繋いできたテーマを、「記念撮影」「pinkie」の2曲にわたって(あたかも一つの楽曲の第1楽章・第2楽章であるかのように!)ひとつの物語として描き出し、大きな景色を見せてゆくのです。

そして、最後。8曲目に選ばれていたのは「友達の唄」「花の名」。どちらも、ここまで見てきた楽曲のテーマをさらに大きなスケールで、より俯瞰的に描いている内容になっています。「友達の唄」では、ヒトの一生のごくごく一瞬だけで出会い、知り、そして結び合ったふたりの想いが、実はちゃんと届き合っていたことで一つのカタルシスを迎えるストーリー。<そうかあなたは こんなに側に どんな暗闇だろうと 飛んでいける>。この想いに、相手はこう返します。<忘れないよ また会えるまで 心の奥 君がいた場所/そこで僕と 笑っている事 教えてあげたいから><ずっと友達でしょう>


「記念撮影」「pinkie」でひとり不確かながらも信じようとしていたことが、ここでは相手に届いていて、より力強く、確信的に、そして感動的なクライマックスとなって物語は終わりを迎えます。そして「花の名」も、こちらは二人称ではありませんが内容はほぼ同様です。今はここにいない(これからいなくなる)あなたへ、<一緒に見た空を忘れても 一緒にいた事は忘れない><いつか 涙や笑顔を 忘れた時(「記念撮影」「pinkie」で描かれているような状況)だけ/思い出して下さい><あなただけに 会いたい人がいる>4・5曲目で提示され、6・7曲目で迷いながらも前を向くように描かれたテーマが、この8曲目で力強く肯定され、クライマックスを迎える構成ーー。

こうなると、ツアー途中からセットリストに加わったスノースマイルが、なぜアンコールではなく8曲目に唐突に挿入されたのかも読み解けます。このスノースマイルですら、かつて一緒にいた「君」に向けて、イマの時間から<君に出会えて 本当に良かった>と伝えるための唄で……。<僕の右ポケットに しまってた思い出は/やっぱりしまって歩くよ//君の居ない道を>。一瞬、悲壮感のある言葉にも感じられるかもしれませんが、ここに続く音楽はそれすらも包み込むように、ラララ、と大団円を迎えてゆきます。4曲目から描き出していた物語が、ここに、寂しく、優しく、幕を降ろすのです。


特別なツアーの終わりに――ファンが指摘した「PATHFINDER」ふたつのトリビア

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実に5曲にも渡って、日替わりで内容を入れ替えながらも、まるでひとつのストーリーを描き出すようにセットリストを組み、奏で、歌われるーー。これはBUMP OF CHICKENのライブ史上、紛れもなく初の試みだったと言えるでしょう。これらテーマ的に統一感のある内容(この曲順に演奏されることでフォーカスされるテーマ)が、さながらコンボが決まっていくかのように鑑賞者の心に突き刺さりました。歌われている内容への感受性が強い方ほど、今回のツアーは「泣けて」しまうものだったのではないでしょうか。

これまでバンプは、このような“楽曲の順番で決まっていくコンボ”を、主にオリジナルアルバムで展開させていました。それこそ『ユグドラシル』の「同じドアをくぐれたら」「車輪の唄」スノースマイルや、『RAY』の「Smile」「firefly」など……。今回、バンプがアーティストとして持つこれらの大きな武器を、比較的雑多な曲順が多かったライブで初めて導入したのです。そしてこれは、アルバムツアーではないからこそ実現した、過去のライブとしては非常に自由度の高いものでした。この後のバンプにおいても、もしかするとなかなか見ることが出来ないかもしれない、非常に貴重な内容だったと言えるでしょう。もしかすると「PATHFINDER」というツアー自体が、バンプにとっては、形を変えた「ニューアルバム」だったのかもしれません

……最後に、トリビアを。私自身がツアーに参加したのは2回だったため、ここからは他の方のご意見を引用してしまう形なのですが、個人的に見逃せない2つのご指摘をここで紹介させて頂きます。

ツアー1曲目「GO」のイントロでは、藤原がアドリブ調で「オーオオオー」と歌う箇所があるのですが(これ自体は『BFLY』ツアー等でも披露)、仙台公演、神戸公演二日目*9ではその部分が「ダニーボーイ」のメロディに差し替えられていたというご指摘です(神戸2日目は参加していたのですが気づかなかった……どうして気づいたんだ笑)。「ダニーボーイ」は、アイルランド*10の伝統的な民謡に多数つけられている歌詞の中でも最も有名なもので、「“いなくなった”あなた」への想いを届ける(あれ、上で書いたような?)という内容。宮城公演で使われた会場・セキスイハイムスーパーアリーナ東日本大震災で3か月間にわたり遺体安置所として使用された経緯があり、神戸公演二日目は阪神・淡路大震災からちょうど23年目の2018年1月17日に行われました。決して言葉には出さないものの、バンドの無言の鎮魂の想いが、この「GO」のイントロには込められていたのではないでしょうか?

ふたつめのトリビアです。

ファンにとっては最早恒例となっている、ライブ中の藤原の「歌詞変え」。今回は半年間にわたるツアーだったこともあり、その歌詞変えの内容が後半にかけてどんどん変化してゆきました。その歌詞の変遷に藤原の内部で起きている変化を考察した、見事なご指摘です。特に「流星群」は、ツアー後半からアンコールのラインナップに加わった楽曲で、前述した通り「“いなくなった”あなた」へのテーマ(がフィクション化していった経緯)と共鳴の深い楽曲。ライブでは、その歌詞の最後に「行かなきゃ」というフレーズがほぼ全公演で追加されました。この「(愛しい君を置いて、ここではないどこかへ)行かなければいけない」という表現は、『RAY』以降の藤原の創作ではほとんど出てきていないモチーフで、正に「PATHFINDERを通じて新たに出てきた」次のテーマなのではと感じさせられます。さいたま公演終盤で披露され、ツアー後第一弾新曲となった「Spica」の歌詞の終わりにも、<行ってきます>という歌詞が使われています。既に次のフェーズへ移りかけている藤原の創作世界。これからのバンドの表現も、本当に、楽しみです。

ブログ記事の前半では、「PATHFINDER」ツアーもうひとつのキモである「セットリスト」以外の革新点について触れております。

リボン

リボン

 
アンサー

アンサー

 
記念撮影

記念撮影

 

 

*1:2004年に発生した新潟県中越地震の直後に「MY PEGASUS」新潟公演を迎えて以来、バンドは新潟公演でサプライズを用意する傾向があります。

*2:お客さんがなかなか帰らず熱狂の中でアンコールが叫ばれ、曲目もその場で決められたといいます。

*3:FLAME VEIN』~『THE LIVING DEAD』4曲、En3曲。『jupiter』~『ユグドラシル』5曲、En4曲。『orbital period』~『COSMONAUT』8曲、En2曲。『RAY』~『Butterflies』8曲、En1曲。それ以降4曲、En1曲。

*4:作曲時期的にも、正に『COSMONAUT』から『RAY』へ橋をかける楽曲になりましたね。

*5:タイアップの都合上、この4曲は短期間で集中的に作詞されたといいます。

*6:「記念撮影」は、そのタイトルの不思議な共通点も相まって、まるで今の藤原が天体観測をもう一度書いたような内容にも感じられます。

*7:公開されていたライブリハの写真の中に、増川のエフェクターが映されていて、そこにちいさーく「pin…」の文字が表示されていたため。気づいた方すごい!

*8:直前に自分のセットリスト予想は書き終えてしまっていましたが……。

*9:一部指摘では福岡公演でも披露があった?

*10:アイルランドは、藤原が人生初の海外旅行の行き先に選んだことでも知られ、また精神的にも音楽性的にも、バンドと非常に縁が深い国です(個人的には、あの「DANNY」の題はこの「Danny Boy」から取られたのだと勝手に思っています)。