地球飛行士からの手紙

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完全ガイド!BUMPのライブDVD、お薦めはコレだ。【2017年版】

BUMP OF CHICKEN 結成20周年記念Special Live 「20」 (通常盤)[Blu-ray]

へなちょこバンドのライブを観よう!

BUMP OF CHICKENの、「SURF PORKIN'」以来16年ぶりとなる非レコ発ツアー「PATHFINDER」がいよいよ2017年9月16日からスタートします。配信リリースは続いたものの、基本的にアルバムを挟んでいない超久々の大型ツアーということもあり、否応なくその内容へ期待が高まります。毎回欠かさず参戦しているという方も、これが初めてのライブになる方も、久々のバンプになりそうな方も、今のところチケットが取れていなくて追加公演に賭けている方も……予襲・復襲をかねて(申し訳ございません、ただいま誤字がありました)、過去のバンプのライブ映像を観ておきたい! という気持ちが高まっているのではないでしょうか。

もともとは、ライブDVDを一切発表してこなかったBUMP OF CHICKEN。そう考えれば、最近の主要な公演はおおむね商品化されるようになりましたので、かなり幸福な状況だと言えますよね。一方で、既に4枚ものライブDVDがリリースされており、お値段もアルバムと比べればかなり高め……というかレンタルもされていない……ということで、実はアルバム以上にどれにしようか選びづらいのが、ライブ映像作品なのではないでしょうか?

そこで今回は、2017年8月現在で発売されているBUMP OF CHICKENのライブ映像4作品+アルバム特典の2本を全レヴュー! それぞれの立場の方にもお勧めしやすい内容に仕上げてみました。どうぞ最後までお付き合い頂ければ幸いです。ちなみに、タイトル横に書いた「おすすめ度」を表す星の数4つが最高値です。なんで5つでなく4つか? 野暮なことを聞くなっ!

 


既にファンなら『結成20周年記念 Special Live「20」』一択! ★★★★


 あなたが既にBUMP OF CHICKENのファンで、もしくは『THE LIVING DEAD』や『jupiter』や『ユグドラシル』まではファンだった、という方ならば……問答無用でこの『20』をオススメします。ぶっちゃけこれ一択です。これだけ買えば絶対に大丈夫です。下の説明も読まずにカートに放り込んで頂いて全く問題なし。それくらいのオススメ度マックスな商品が、この『20』なのです。

とにかく、セットリストがすごい! 結成20周年記念日にたった一公演だけ、しかもキャパ1万5000人という(近年としては)小規模で行われた地元・幕張メッセでのライブは、終演直後からファンの間で大きすぎるほどの話題になりました。メンバー4人だけでじっくり決めたというセットリストは、新旧を見事に織り交ぜ、実に10年ぶりの演奏となるレア楽曲も多数含め、さらにはライブ初披露となる昔の楽曲、ダメ押しでCDにすらなっていない初期の超レア曲まで披露された、豪華極まりない内容でした。その上、どの楽曲もパフォーマンスが本当に素晴らしい! たった一公演だけだったこともありますが、他の映像作品と比較してもライブ演奏が際立っています。ほとんどの楽曲が、ベストテイクといってよい内容になっているのです。

さらに、ライブ上の演出が「最小限」なのもポイント。近年のバンプのライブは、スクリーン映像や光る腕輪「PIXMOB」、巨大ボールに花火など、音楽以外の要素もかなり派手に織り交ぜたものとなっています。しかしこのライブではそれらが排除されており、まるで初期の頃の、同期SEもほとんどない(あるにはありますが)純粋なライブサウンドのみを楽しむことが出来るのです*1

後述しますがバンプというバンドは、「メンバーよりもお客さん、メンバーよりも音楽そのものを」大事にするという、強い哲学を持っている共同体です。しかしこの商品だけは、「20周年のお祝いだから!」ということで、ライブの主役は「お客さん」ではなく、明確に「メンバーの4人」に絞られています。だから、藤原・増川・直井・升のかっこいいライブパフォーマンスをじっくりと楽しめるアングルが多数織り交ぜてあるのです。いたせりつくせりとは、正にこのことでしょう!


 さらに言えば、これから紹介するDVDよりもお値段が「安い」。おまけ映像も最小限で、ジャケットも通常盤は非常にシンプルです。5000円を切る最安値で購入できるバンプのライブ映像作品なのです。……逆に言えば、これより先の商品よりも「こだわりが少ない」DVDだと言えるでしょう。というより、商品としてこだわる必要があまりなかったのです。何しろライブそのものが、非常にメモリアルだったのですから。

とにかく、バンプが好きな方も、「昔のバンプ」が好きだった方も、この商品だけはマスト! あの頃、本当に見たかったバンプのライブがここにあります。演奏も技術も歌もずっと上手くなっています。感動的なほどにです!

あえて言えば、結成してから最初の10年のころのマニアックな「アルバム曲」が多いので、本当にファンに「なりたて」の方、まだアルバムを全部聴いたことがない方にとっては、やや馴染みの薄い曲が多いことも事実でしょう。さらに、その特殊性からいって、「これからバンプのライブを生で見る予習にしたい」という方にも、あまり適当なものとはいえません。ファン歴の浅い方は、もうちょっと後にとっておいたほうがいい商品かも。そんな場合は、次に紹介する『BFLY』をお勧めします。

  • とにかくセットリストがすごい!ここでしか聴けない曲満載
  • シンプルなライブとライブ映像
  • MCが多い…メンバーが主役の演出!
  • 新規ファンの方にはちょっとマニアックすぎるかも…

ド派手!ベストヒットセトリ!『STADIUM TOUR 2016 "BFLY" NISSAN STADIUM 2016/7/16,17』 ★★★


 2016年7月に開催された、バンプ日産スタジアムでの二日間のライブは、バンド結成史上最大規模のものであり、また事実上、これ以上のサイズのライブは今後も行われないであろうと思われるものでした*2。さすがにサイズが大きかったのでチケットが取りやすかったこともあり、この日が「初・バンプライブ」であった観客も多かったのではないでしょうか。

ですから、最近ファンになった方にとって、この公演を収めたライブ映像『BFLY』は、正に入門盤にふさわしいと言えます。

まずは充実したセットリスト! この5か月前に行われたレア曲多数の『20』と双璧をなすように、『BFLY』ではこれまでの「ライブ定番曲」を一斉におさらいするような「ベストヒット」楽曲がずらりと並びました。例えばベスト盤や最新アルバム『Butterflies』を聴いたばかりのファンや、NHKの『SONGS』で初めて動くバンプを観た……という方にとっては、聴きたい曲がいきなりほとんど聴けるような嬉しい内容になっています。新旧を織り交ぜ、ライブ時点での直近のタイアップソングもおおむね網羅されています。長年演奏されている楽曲は特に素晴らしいパフォーマンスで、正に盤石といった感じ。最近ファンになりました! という方の期待に十分応える、最大公約数的なライブ内容だと言えるでしょう。


 そしてもう一つの目玉は、「目で観て楽しい」ド派手なライブ演出の数々!リッチなバック映像、スタンディングエリアに投入される巨大ボール、そして日が暮れると……美しく輝くPIXMOB*3、華やかに輝く最新の照明技術、惜しげもなく投入される紙ふぶき、そして花火! ひとつ前のツアーから導入された大規模な演出の数々がさらに洗練され、演奏と一緒に躍動する様子には否応なく興奮させられます。特に後半のライブ映像は本当に美しい! これだけでMVのような「虹を待つ人」、そして驚きの演出が加わった「Butterfly」には思わず感激させられてしまいます。メンバーも最後の方のパフォーマンスでは終始楽し気で、ファンとメンバーの心が一体化したような感動が訪れることでしょう。

惜しむらくは、会場が巨大すぎて音質がやや籠ったような印象があること。演奏自体に遜色はありませんが、ガツンとロックサウンドを楽しめるミックスには残念ながらなっていません。また「バンプのライブ」を比較的経験されている方にとっては、セットリストの面でも演出の面でもかなり既視感があり、物足りないと感じるかもしれません。ただ、そういう方には『20』があるし、『BFLY』のライブ後半には「まさか!」のサプライズアレンジも聴けたりするので、やはりこちらもチェックしておいていいんじゃないかな? と思います。

新規ファンの方にも、そしてこれから初参戦するライブの予習にもばっちり! 『BFLY』は、皆さんの「最初の1枚」のために用意されたような映像作品です。

  • とにかくド派手!バンプ史上最大規模のライブ
  • 「ヒットメドレー」といえる充実のセットリスト
  • 最新のツアーなので、ライブの予習にもぴったり
  • 熱烈ファンにはちょっと物足りないかも…

バンプの「ライブ哲学」に感動!『GOLD GLIDER TOUR 2012』 ★★★★


 もともと『GOLD GLIDER TOUR 2012』は、これまで頑なに「ライブDVD」のリリースを拒絶してきたバンドが、満を持してリリースした商品でした。初めてこれを観終えた時の、深い感動を今も良く覚えています。ここには、並々ならぬ「バンプ的哲学」が反映されていたからです

オープニングから高らかに鳴り響くモーリス・ラヴェルの「ボレロ*4、まるで観客の一人になったような凝ったカメラワーク、そして幸せそうな観客の表情。メンバー姿がはっきりと映されるのは、再生してようやく14分を過ぎた頃からです。ライブの主役は「音楽」であり、そして「お客さん」である……メンバーの細やかな表情も映されますが、決してアイドルのライブ映像にはなっていない。MCの収録も最小限です。当時最新アルバムだった『COSMONAUT』の世界観を反映させた、メンバーと音楽、そして観客との暖かなアンサンブルがこのDVDには刻まれています。これこそが「バンプ」の哲学、「バンプ」の世界観なのです。『GOLD GLIDER TOUR 2012』は、まさにそれを体現した映像作品といえるでしょう。

他のライブ映像と比べて、カントリー調のアレンジが多いのも嬉しいポイントです。ピコピコ系の電子音とも、荒々しいバンドサウンドとも実は違う、藤原の、そしてBUMP OF CHICKENの大きな要素。今後のディスコグラフィー的にも、ここは少し特徴となってゆくのではないでしょうか。藤原のフォーキーなアドリブ演奏が楽しめる(たまらない!)「beautiful glider」は特に素晴らしいです。私は『COSMONAUT』がとても好きなアルバムなので、やはりここがちょっとひいき目になります。このアルバムが好きな方にとっては、マストといってよい商品でしょう。


そして何よりも素晴らしいのが、「お客さん一人一人に届けることこそが『ライブ』だ」と公言するこのバンドが、「ライブDVD」もまた形を変えたひとつの「ライブ」なのだ、と明確に意思表示をした「最後の仕掛け」です。ここが凄いのです……ぜひ最後までご覧ください。残念ながらこの演出は恒例化しなかったため、今となってはちょっと貴重なものかもしれません。しかしこの「最後の仕掛け」には、他のバンドにはないほどの、強い強いひとつの意志が感じられるのです。初回盤にはこれに加えて、さらに「紙ふぶき」の演出もあったんですよね……ああ、また文章が長くなってしまう……。

暖かなアンサンブルと『COSMONAUT』好きにはたまらない、バンプってこういうバンドだよ」と、これ1枚で説明出来るような、非常に丁寧な映像作品です。とても、おすすめ!

  •  観客中心の、バンプの暖かな「ライブ」哲学を堪能!
  • 最も丁寧に作られたライブ映像作品
  • フォーク&カントリーな『COSMONAUT』好きには必見!
  • 前の二つよりはお値段が少し高いかも?
BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012(初回限定盤) [Blu-ray]

BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012(初回限定盤) [Blu-ray]

 
BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012(BD)<通常盤> [Blu-ray]
 

コレクターアイテム感の強い『WILLPOLIS 2014』 ★★


 2013年から2014年にかけて、BUMP OF CHICKENは、非常に大きな変化と挑戦を強いられる(自らに強いる)こととなりました。それは、『COSMONAUT』で確立した「自分たちのペースを保っている、ちょっと大人なアンサンブル・バンド」から再び、激しく移り変わる音楽業界のメインストリームに引き戻されるような、極めて熾烈なものでした。初のベスト・アルバムリリース、地元の野球場を借り切ったスタジアム・ライブ、ベスト盤ツアーから息も切らせずにリリースした(非常に攻めの)ニューアルバム、スタッフサイドから提案されたヴォーカロイドとのコラボレーション、現在も続く新しい映像ディレクターとの仕事、フロントマン突然の入院、海外公演、そして初の東京ドーム公演……。

『WILLPOLIS2014』は、この「激しい季節」を生き抜いたバンプの様子を切り取ったドキュメンタリー・ビデオです。『RAY』レコ発ツアーのライブ映像に、メンバーの個別インタビューや、会場に集ったファンへのインタビュー、そして会場の外の光景などが挟まれてゆきます。まるで難破船の中のように、「勇気はもうからっぽだ」とつぶやくメンバー。一方、会場の外でギター片手に「(please)forgive」を口ずさんでいる柔らかな表情のファン。それぞれの「勇気」が集い、ひとつのライブへと向かって行く様子が描かれます。私はこのファンが登場するパートがとても好きで、ああ、2014年って、こういうふうに「ライブ」を人々は鑑賞していたんだなぁ、と、きっと何十年経っても振り返ることが出来るのだと思うと、胸がいっぱいになって、たまらなくなります。この穏やかな表情、そして笑顔でライブを鑑賞するファンたちは、バンプが長い時間をかけて「作ってきた」ものだからです。一方、猛烈な時期の渦中にあるメンバーの(かなり長い尺の)インタビュー映像には、すこし胸が苦しくなるものがあることも事実です。

映像の中心となっている、初の東京ドーム公演は臨場感もあり、演出も非常に派手です。また大きなセールスを記録した『RAY』の収録曲をたっぷり聴くことができるのも、大きな魅力でしょう。しかしそもそも派手な演出で「映像としても楽しめる」といえば最新の『BFLY』があるので、立ち位置的に少々取り残されてしまった感じがあります。ライブ映像の合間にファンやメンバーのドキュメンタリーが挟まれるので、会場の臨場感にも欠けます。サプライズだった台湾公演の貴重な映像では、当時レア曲だった「ランプ」の演奏を聴けたりもするのですが、これは後の『20』でも聴けるようになってしまったので、ちょっと貴重度がダウンしてしまいました。また本作の目玉である、初音ミクとのライブ共演映像「ray」は、メンバー4人とヴァーチャル・シンガーがまったく並列にスクリーンに映し出される……とても胸熱で魅力的な、素晴らしいものになっています。なっているのですが、しかしこれも今となっては、YouTubeのオフィシャルチャンネルで見れちゃったりするんですよね……。


『RAY』収録楽曲を聴きたいなら、間違いなくこの1枚をお勧めしますしかし以上のような事情から、他のバンプの「ライブ映像作品」とは少し違った毛色をもつ商品になっていることも事実です。これからライブDVDを集めるのならば、もしかすると、最後に買ってもいい商品かもしれませんね。

  • ドキュメンタリー映画風の異色作
  • 『RAY』楽曲のライブを聴きたいならこれ!
  • 派手なのが見たければ『BFLY』なのでちょっと取り残された感…
  • 初音ミクとの「ray」はYouTubeで観られます!

音質良し!渋いライブ『Special Live 2015 at Yokohama Arena』 ★★★

Butterflies(初回限定盤)(Blu-ray付)

アルバム『Butterflies』の初回限定盤に収録されているライブ映像作品。2015年夏に行われた横浜アリーナでのライブが全編収められています。

ちょうどアルバムリリースの狭間に開催されたこともあり、セットリストがやや特殊なのが特徴です。特に、当時のライブが商品化されていない名盤『ユグドラシル』や『orbital period』収録曲が多く演奏されているのが嬉しいところ。あの「太陽」や「embrace」までもが見事なライブ演奏で楽しむことが出来ます*5。さらにサウンドのミックスがラウド寄りなので、特にこういうサウンドが好きな人にはたまりません。派手なライブ演出も少なく、また「天体観測」が演奏されていない珍しいライブなので、全体的に渋めの内容になっていると言えるでしょう。

Butterflies(初回限定盤)(DVD付)

Butterflies(初回限定盤)(DVD付)

 
Butterflies(初回限定盤)(Blu-ray付)

Butterflies(初回限定盤)(Blu-ray付)

 

残っていればオススメ!『2013.8.9 Live at QVC Marine Field』 ★★★

RAY(初回限定盤)(予約特典ステッカー無し)

アルバム『RAY』の初回限定盤に収録されているライブ映像作品。2013年夏に行われた千葉・QVCマリンフィールドでの野外ライブが全編収められています。

ベストアルバム発売記念に、地元千葉では最大規模のライブ会場が押さえられ実施されたメモリアルなライブ。チケット価格も格安で、当日はYouTubeで全編が無料生中継されたこともあり、かなりファンへのサーヴィスという趣旨が感じられる公演になっています。また、現在に続く「派手な」演出のライブが始まった、最初の公演でもあります。

このビデオが素晴らしいのが、野外公演としては音質がいいことです。特に、ここでしか聴けない「花の名」*6正にベストテイクと言ってよい内容!60分を切る短めの映像ですが、充実したライブパフォーマンスを楽しむことが出来ます。2017年現在で『RAY』の初回盤を入手するのはやや困難だと思いますが、見かけたらぜひ手に取ってみてくださいね。


 

いかがでしたか? 常に前に進み、ファンを魅了し続けるBUMP OF CHICKENのライブ、そしてライブ映像。気になるものがありましたら、是非お手に取ってみて下さいね。そして幸運にもチケットが取れたならば……次は、ツアー「PATHFINDER」の途上でお会いしましょう!

↑ええ曲や……。

*1:照明のみ、最先端の技術が取り入れられています。

*2:日産スタジアムが2017年現在で、ライブ実施が可能な日本最大規模の会場である(キャパ約7万人)ことから

*3:観客に配布される「光る腕輪」。

*4:しかも世界最高の指揮者の一人だったヘルヴェルト・フォン・カラヤンベルリン・フィルハーモニー交響楽団の黄金コンビによる音源!

*5:さらに「embrace」では、初公開当時の貴重な歌詞替えが再現されています!

*6:バンプの代表曲のひとつですが、実は商品化されているライブではここでしか演奏されていない……。

そろそろバンプの「アンサー」の話をしよう。

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ハナデルシルカモ!(呪文) ご機嫌いかがでしょうか。突然ですが皆さんは、最近のバンプの曲でしたらどれが好きですか? やっぱり「Hello, world!」「アリア」バトゥフラィ? ライブバージョンが圧巻だった「流星群」? それともこの間の「リボン」……?

「リボン」良かったですよね! 過去の歌詞が散りばめられたりしていて、とてもグッと来るものがありました。

あ、ところで僕ですか? ちなみに僕は、「アンサー」です

「アンサー」は、いわゆるバンプの「20周年イヤー」最後にリリースされた配信限定シングル。TVアニメ「3月のライオン」OPテーマとして書き下ろされた楽曲です。だけど現時点で、フルサイズのMVがやっと作られた程度*1だし、そもそも公式の歌詞がまだ発表されていない「アリア」は配信と同時に歌詞も各サイトへ提供開始)。ネットに転がっている「アンサー」の歌詞は、現時点ですべてファンの聴き取りによるものです*2。また、「3月のライオン」EDテーマである「ファイター」がBUMP屈指の大名曲*3であることもあり、何とな~く、ファンの間でも、さらっと流れてしまった曲のような気がしています。

けれど、そんな「アンサー」は、実は「ファイター」に負けず劣らずの素晴らしい名曲です。個人的には、2016年リリースされたBUMPのどの曲よりも「アンサー」を推したいくらいなんです。


虹の辿り着いた場所――「アンサー」は2曲目の「ray」だ!

ハルジオン

以前の記事で、BUMPの歌詞は「歌い出し」が素晴らしい!と書きました。そういう意味では、「アンサー」の歌い出しはそれほどインパクトがあるわけではありません。

<魔法の言葉 覚えてる 虹の始まったところ/あの時 世界の全てに 一瞬で色が付いた>

 うーん、何の事だろう? という感じですね。

実はここのポイントは*4<虹の始まったところ>です。は、藤原の歌詞でも比較的重要なモチーフになっているからです。

<虹を作ってた 一度 触れてみたかった>

 「ハルジオン」で、は「決して触れられないもの」として描かれます。愚かであることが判っていても、大人になったとしても、すがるように繰り返し作っては、手を伸ばしてしまうもの――。また「arrows」では、果てしない旅路の最後……

<行きたい場所は全部廻った後で また会えたら/荷物の無い体ふたつで その弓を渡ろう/あんなに近い ずっと遠い あの雲にのぼろう>

 と歌われました。ここでのは、最後の最後――ふたりの希望の大地へと橋を架ける、夢の存在として描かれています。……あっ! ちなみに虹の「rainbow」って「rain+bow」から――雨(rain)のあとにかかる弓(bow)って意味から由来しているんですよね。だからこの歌詞でいう「弓」って、つまり「虹」のことなんですよね。ご存知でしたか?

最近の曲だと、そのものズバリが「虹を待つ人」

<同じ虹を待っている>

 これもまた、いつか手にすることが出来るかもしれない希望としてのが歌われています。ただこの曲の場合の虹は、自分以外の誰かとも一緒に、みんなで「せーの!」って感じで待っている、そういう、これまでよりもさらに大きな希望についての存在になっていますね。

虹を待つ人

虹を待つ人

……で、だ。そんな感じに古(いにしえ)からバンプでは、とは「触れられないけれども見える。いつかは手に入るかもしれない」「約束の場所へと連れて行ってくれる」「待っている」ような存在として描かれていたわけです。今回の「アンサー」では、1番ではその「夢・希望・約束」の始まりである、<虹の始まったところ>を回想するような歌詞からスタートしています。そして、2番では……

<魔法の言葉 覚えてる 虹の辿り着いたところ

 虹の辿り着いたところ!!

ここでのは、もう、夢みたいに見上げていたそれではない。約束の場所に想いを馳せるようなそれでもない。待ち続けていたそれでもない。虹を渡ったその先に、自分は既にたどり着いていて、つまりもうここはいつかの約束の場所で、もっと想像すれば……辿り着いた今ここから振り返れば、既に後ろの虹は消えてしまっているのかもしれない

<想像つかない昨日を超えて/その延長の明日を抱えて/小さな肩 震える今 それでも笑った>

 いろんなことが、こうして、気づけば辿り着いているものなのかもしれない。あんなにのぼりたいと願っていた虹に、もうのぼっていたことに、のぼり終えていたことに後から気が付くものだなんて――。

「アンサー」は、正にバンプが歩き続けながらも探していた場所に、辿り着いたような歌になっています。だからきっと、かつて<生きるのは最高だ>という言葉を引き出した「ray」のような、圧倒的な解放感に満ち溢れているんだと思います*5。それはもう、寂しさすら感じさせるほどに。もう虹に、夢を託せなくなったとして。いつか夢見たような、すべてが解決するような理想郷では、ここがなかったのだとして……。


「見えないもの」は、どうして見えないんだろう?

<気が付けばいつだって ひたすら何か探している>

 天体観測で、藤原は<見えないものを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ>と歌いました。でも本当は、目に見えないものは望遠鏡にも写るわけないですよね。オイオイ、それじゃ歌詞じゃないって? 否、実はそこの線をしっかり引いているのが、作詞家・藤原基央のグッとくるポイントのひとつ。<見えないものを見ようとして>、この「見ようとして」というアクションの切実さ、こそが、この歌詞のキモになるエモーションなのです。描かれるのは「見ようとして」どうなりたいかじゃない。「見ようと」する、その行動そのものへの問いかけなのです

「見ようとする」とは、「見つけよう」とするということ。言い換えれば「探す」ということ――<幸せの定義とか/哀しみの置き場とか>。それだけじゃない。バンプは20年間、色んなものを探し続けています。自分の居場所、その想いの正体、お別れしなければならなかった理由この時間が掛け替えのないことである理由嵐の中をどこまでも行かなければならない理由――。

「アンサー」では、これにも「答え」を出している。「見えないもの」は、どうして見えないんだろう? ならば「見えないもの」は、一体どこにあるんだろう?

<雲の向こうの銀河のように/どっかで無くした切符のように/生まれる前の歴史のように/君が持っているから

 雲の向こうにあるはずの銀河も、どこかで無くしてしまった大切な切符も、生まれる前から脈々と続いているはずの歴史も、望遠鏡には決して写らない。なぜならそれは、もうあなたがあなたの中に<持っているから>なんだ。「望遠鏡」とは「遠くをみる」ためのもの。自分の内側を覗けるものでは決してない。これを言い切るということは、実はとても大きな決断です。みのもんたに促されて、藤原は回答Aを選択したのです。ファイナルアンサー?

過去の曲で描いてきた「問いかけ」に、ひとつひとつ丁寧に答えを出そうとするような歌詞。ですが「リボン」と違い、直接的に過去の「どの曲」かを明言するような仕掛けはほとんどありません。言い換えれば「リボン」は、それだけバンプというバンドの歴史と密着して描かれている楽曲です。「アンサー」はそうではない。「アンサー」はもっと、バンドの外側――外の世界についての歌詞になっていると思えるのです。心の中の葛藤と、それでもいま目の前に広がる景色とで、必死に手を繋ごうとしているような、そんな歌詞……。

<鈍く残った痛みとか しまってしまった想いとか/滲んだって消えないもので 町は出来ている>


アンサー ~たとえ自分が“取るに足らない”としても

ダイヤモンド

藤原基央が唄を唄い始めて、バンドが音を鳴らし始めて、そうして何十曲も積み重ねてきた「辿り着けない」「なぜ?」に、「アンサー」はひとつのゴールを与えています。

2番が終わって、高らかに奏でられる、雲の上まで届くようなギターソロ。バンドメンバー4人全員がジャーン、ジャーン、ジャッ、ジャッ、とかき鳴らしてからの、最後のサビ。僕はここが特に大好きです。恥ずかしい話、うっかり仕事場で口ずさんでいたら、ついハッとなって泣いてしまいました……。すごいアンサー。すごいアンサーが描かれているんですよ。もう……。

いきますよ!

<心臓が動いてることの/吸って吐いてが続くことの/心がずっと熱いことの/確かな理由が>

 心臓が動く理由も、吸って吐いてが続く理由も、心がずっと熱い理由も、全てひとつしかない。なぜかって? 簡単ですよね。詩的な、かっこいい表現をするまでもない事実。それはあなたが、今「生きている」からだ

「生きていたい」と思っていなくても、あなたは今、どうしようもなく「生きている」。たとえ、生きていたい理由がわからなくても、自分が取るに足らない人間だったとしても、世界から消えていいような存在だったとしても。たとえ自分が<砂漠の粒のひとつだろうと/消えていく雨のひとつだろうと>。それでもあなたは、<貰った 名も知らない花のように/今 目の前にあるから>

花の名

とるに足らない花の一つでも、誰かから手渡されたなら、その「名も知らない花」は、間違いなく目の前にあるものになる。「花の名」という曲で、藤原はこう書いています――

<あなたが花なら 沢山のそれらと/変わりないのかもしれない>

 けれど、

<迷わずひとつを 選んだ/あなただけに>

ここは解釈次第で変えてもいいんです。手渡してくれた「誰か」を、例えばあなたの大切な人にしてもいい。そしてもちろん、手渡してくれた「誰か」を、自分自身、ということにしたっていいのです。

あまりにも力強く、最後の歌詞が唄われます……。

それだけ解ってる/僕だけ解ってる/だからもう 離れない/二度ともう 迷わない

 当たり前すぎること。当たり前すぎるが故に、時々受け入れられないこともあること。20年間、こんなことばっかり歌い続けてきたバンプ・オブ・チキンの、何だか集大成みたいな曲だとは思いませんか?


「A」

アンサー

最後になるけれど、このジャケット……。

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わかる? そう。ABCです。

「A」が欠け続けていたこのバンドに、ようやく「A」が揃ったというわけなのです。ま、「A」が欠けているからこそのバンプなんだけれど、20年間もやってきたんですし、たまにはこういう曲も、あってもいいんじゃないかな……(号泣)

それにしても、20年詩を書き続けていたら、こんなふうに「A」がつくこともあるだなんて……。バンドじゃなくてもいい。なにかを20年続けるって、悪いことではないのかもしれない。

BUMP OF CHICKEN 結成20周年記念Special Live 「20」 (通常盤)[Blu-ray]

探していたものを見つけたところで、バンドも人生も、相変わらず続いていくけどね!

*1:2016年10月にラジオ解禁、12月に配信リリース、2017年4月にMVフルサイズ公開。

*2:なので、これから引用する「アンサー」の歌詞も、わたしが聞き取って漢字をあてはめた歌詞ですので、ご了承くださいね。

*3:ロストマン」「ゼロ」に連なる、バンプの王道といえる大作です。

*4:バンプの過去の歌詞をどれだけ読んでいるかにもよるのですが……。そういうのあんまり良くはないよね!実は。

*5:「引き出した」というだけで、「生きるのは最高だ!」という結論を導いた、そういう曲ではないのだとしても、ね。

21年目へ!BUMP OF CHICKENが「本当にすごい」3つの理由(仮)

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はじめに~タイトルに「(仮)」をつけている理由

ええと、うん。まずね。記事タイトルに「カッコカリ」を付けたことには理由があるんだ。というのも、この記事の内容は筆者がずっと書きたかった内容で……。何しろバンプって、実は日本音楽界においてすっごい影響力と立ち位置にいるミュージシャンのはずなのに、私たちはどこかまだ彼らを「総括」できていない。音楽ライターがその都度だらだらインタビューを書き流しているだけで、バンプが現れたことで、この日本に起きた影響って何なんだろうか」「バンプが未だに特別扱いされる理由は何だろうか」ということをしっかり考察している記事が、まだないような気がしていたのだ。

けれど私はいわゆる「信者」なのだ。さらに言うと、中の人はアラサーではあるけど初期のバンプにリアルタイムで触れてはいない人で、その頃の時代の空気については、後から調べたり、読んだり、辿ったりでしか見聞きしていない。なので、これから書いてある記事に誤解があったり、思い込みがあったり、見落としがあったり、間違いがあったりするのでは……と思っているのです。自信満々でこの記事を発表出来ない理由はそこにあるんだ。なので、特に10代・20代前半ファンの方は、この記事については楽しんでほしいと思いつつも、すぐ鵜呑みにはして欲しくない気持ちも、ちょっとあるんだ。

でも、誤りばかり恐れていては、いつまでも何も発表ができない。そこで長らく書きためていたこの記事を、「(仮)」をつけた暫定稿として発表して、皆さんからのツッコミを待とうと思ったのです。なので今回の記事については、特にコメント欄からのツッコミや、賛同や、証言をお待ちしています。もちろん全部読んで反映させようとしたら気が狂ってしまうので、そこは恣意的に切り落とすことはあるかもしれないけれど、是非ご協力願いたいのでございます。

では、お届けします。今年2月11日で「20周年イヤー」が終わる、デビュー以来ほぼノンストップで走り続けてきたバンド、バンプ・オブ・チキン。彼らが本当にすごいと言われる理由。その中でも、特に「斬新だった」「革新的だった」3つのポイントについて。そして、その背景について。


BUMP OF CHICKEN 結成20周年記念Special Live 「20」 (初回限定盤)[Blu-ray]

【要約】BUMP OF CHICKENのどこが「伝説」なのか?

  • 天体観測」をヒットさせ、日本に「歌」主体のギターロックを取り戻した

  • ロック音楽の歌詞に「物語」を取り入れ、現在のボカロカルチャーの基礎を作った

  • プロモーションにインターネットを活用し、その最初の成功例となった


BUMPは、日本に「歌」主体のギターロックを取り戻した!

天体観測

2001年3月14日、BUMP OF CHICKENはセカンドシングル天体観測をリリース。大阪のラジオ局の猛プッシュなどもあり、徐々に口コミで火が点き、最終的には50万枚超の大ヒット。バンドは社会現象を巻き起こしました。

BUMP OF CHICKENはなぜ「本当に凄い」のか?なぜバンプは「特別」な扱いをされるのか?

バンプがいなければ起きてない未来は、実はたくさんあります。その中でも世間に与えた一番のインパクトは、これだと断言できます。バンプは「天体観測」のヒットによって、日本に「歌を聴かせる」ロックミュージックを復活させたのです。

……そもそも「天体観測」がヒットしたのは、一体どのような時代だったのでしょうか?

90年代中盤、ロックミュージックの中心はMr.Childrenスピッツウルフルズなどのロックバンドでした。そして彼らの勢いがやや陰りをみせた97年から、日本のCD売上はピークを迎えます。GLAYL’Arc〜en〜Cielといった、いわゆるヴィジュアル系のロックバンドが大ブームとなり、爆発的なセールスを記録したのです。一方で同時代、インディーズではHi-STANDARDなどのパンク・ロックTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのようなガレージロックが流行していました。

これら90年代末期に活躍したロックバンドには、実は大きな共通点があります。これらはいずれも「歌よりはリズム」重視で、歌詞をしっかり聴かせるタイプの音楽ではなかったのです。ひとつ付け加えれば、どのバンドも「歌詞がつまらなかった」わけでは決してありません。けれどどちらかといえば、歌詞の世界をしっかり届けるというよりも、音楽のグルーヴやリズム、肉体的なバンドサウンド……つまり演奏やパフォーマンスそのものを、より重要視していました。かつてMr.Childrenスピッツが歌っていたような、日常から生まれる平易な言葉とセンスは、インディーズからも、ヒット・チャートからも失われていたのです。

そんな中、ほうき星のように現れた「天体観測」はーー歌詞がよく聴こえる、そして商業的な匂いからも縁遠い、「普段着」の若者が歌い上げた久々の「叙情的」な楽曲でした。気づけばヒット・チャートから長年消えていたーーMr.Childrenスピッツに連なるような、そして紛れもなく新時代を感じさせる「歌を聴かせる」ロック・ミュージックが、「天体観測」によってこの国に戻って来たのです。タイアップもない、無名の22歳の若者たちのよるささやかなロックバンドの会心のヒットは、世間に世代交代を強く印象付けました。ですから当時のメディアは「天体観測」のヒットを、「王道ギターロックの復活」と表現して報じていたのです*1

天体観測」のヒットから2年後、パンク・ロックの流れを組みながらも「歌」と「歌詞」、そして「インディーズ性」の流れを見事に汲んだMONGOL800が記録的ヒットを飛ばしたことで、この新しいジャパン・ロックの流れは確立します。その後のASIAN KUNG-FU GENERATIONレミオロメンELLEGARDEN、そしてRADWIMPS……の活躍は、すべてBUMPのヒットがその先陣となったのです。BUMPがいなければ、KANA-BOONも、キュウソネコカミも、そもそも現在のロックカルチャーすらも……この国にはなかった「かも」しれないのです


バンプは、ロック音楽の歌詞に「物語」を取り入れ、現在のボカロカルチャーの基礎を作った!

THE LIVING DEAD

BUMP OF CHICKENのメンバーが多感な時期を過ごした90年代中盤は、若者のカルチャーサブカルチャーに大きな変化があった時代でもありました。

下北沢時代、そして「ガラスのブルース」を生んだFLAME VEINは素晴らしいアルバムですが、BUMP OF CHICKENが現在のBUMP OF CHICKENになったのは、ある意味、その次の(2枚目の)アルバム『THE LIVING DEAD』からです。このアルバムはすごく特異な作品です。収録されている全10曲が、まるで短編小説のような物語になっていたのです

1曲目「Opening」の歌詞は、さながら登場人物のセリフのように書かれており、彼から「いくつかの物語」をプレゼントしてもらった、というテイでそれぞれのアルバム曲が展開します。ある収録曲の登場人物が、別の曲にも登場します。ふたりの男女のやりとりが、まるでセリフのように交互に歌われます。黒い猫が主人公——という絵本のような世界観で、とても残酷な物語が展開します。

この斬新な*2構成、そして描かれていた情熱的な物語が、あの当時の思春期の若者たちを魅了していったのです。

藤原は、なぜこのような曲が書けたのでしょうか

藤原は当時のインタビューで、影響を受けた音楽は何だ、という質問にドラクエ(『ドラゴンクエスト』)のサントラ」と答えています。アルバム2曲目の由来となった「グングニル」は、ファイナルファンタジー』に登場する召喚獣の武器から着想を得たそうです。ちょうどメンバーは小学生の頃にスーパーファミコン、高校生の頃にプレイステーションの発売を迎えています。メンバーが10代を過ごしたのは、正にテレビゲームの黄金時代……特に『ファイナルファンタジー7』のような、ドラマ性の色濃いRPGが大ヒットしていた頃でした。もちろん藤原たちも、大いにこれで遊んでいたといいます。

また1994年〜95年ごろは週刊少年ジャンプの全盛期。雑誌発行部数の世界記録である653万部は、実はこの頃に記録しています。メンバーはデビュー後も毎週購読を欠かさなかったというほどの『ジャンプ』ファンで、2003年にバンドの成功を決定づけた『ONE PIECE』劇場版の主題歌(「sailing day」という曲です)オファーも受諾しています。また96年には、その後の日本のサブカルチャーを塗り替えることになるテレビアニメ新世紀エヴァンゲリオンが放送開始。特に藤原がこれに強く影響を受けたようで、ヒロインの綾波レイと結婚したいあまりに(笑)「アルエ」という名曲を執筆(ベスト盤でも聴けるよ!)、そして10年後には『エヴァ』のリバイバルにインスパイアされ、幼い日を回想するようなR.I.P.というシングル曲も書いているほどです。

つまり藤原が一番多感だった頃、周りには、こういった「若者」が熱狂する「物語」のようなものがゴロゴロしていたのです。サブカルを音楽性に取り入れたバンドは数あれど、それを完全に自分のものにした上で特有の「匂い」を引き剥がし、そして21世紀の若者の音楽としてそれを昇華させたのは、間違いなく藤原基央が先駆者でしょう

音楽にサブカル的な「物語」を導入し、時にはキャラクターのセリフのように、ロック音楽としてストーリーを歌い上げる――。これは、現在のVOCALOIDニコニコ動画的カルチャーの基礎中の基礎にあたります。音楽ライターの鹿野淳はある雑誌の中で、BUMP OF CHICKENが居なければ今のVOCALOIDカルチャーはここまで成長しなかった」と断言していますが、これは私も同意します。ボカロP出身である米津玄師については語るまでもなく、supercell君の知らない物語が「天体観測」の直接的影響を感じさせるように、HoneyWorks「ロクベル」で「K」を翻案し、そしてホーリーフラッグ」という大名曲で直接的かつ感動的にバンプリスペクトを捧げているように……様々なボカロ楽曲から、その影響がそこかしこに見られます(もちろん、全部ではないですよ!)。ですから、初音ミクがクリプトン社史上初となる公式コラボレーションの相手としてBUMP OF CHICKENを選んだのは、正に必然だったと言えるのです

THE LIVING DEAD』は、90年代カルチャーを飲み込みながらも現在に連なる「物語音楽」の礎となった名盤であり、その最初の成功例でもあり、また「VOCALOID」カルチャーの産みの親といえる、正に「歴史の証人」と呼べる存在なのです


BUMPは、プロモーションにインターネットを活用し、その最初の成功例となった!

FLAME VEIN

BUMP OF CHICKENは、最初のブレイク時、地上波テレビにはまったく出演しませんでした。特に、音楽番組で演奏する、ということはまったく行いませんでした。ミュージックステーションの初出演がブレイクから15年経過した2014年、紅白歌合戦出場が2015年だったことを考えれば、非常に長い間、彼らは地上波テレビから背を向けていたことになります。これは、いわゆる「バンプ的」ロックバンドに共通する(共通していた)、非常に大きな特徴でもあります。

とはいえ、テレビ番組に出ないのも、雑誌中心に露出するやり方も、特にバンプが初めてというわけではありません。しかし、そこに「インターネット」を取り入れ、それを積極的に活用したのは、間違いなくバンプがその最初の成功例なのです

日本の一般家庭に「インターネット」が登場したのは1998年ごろ。1999年には人口普及率21.4%、翌2000年には37.1%に達しています。ADSLiモード2ちゃんねるが登場し、GoogleAmazonが日本でサービスを開始させたのも、この頃です。バンプがCDデビューした時代、インターネットは日本の家庭に急速に普及してゆく、正に過渡期だったのです(そうそう、前述の「グングニル」というタイトルを曲名につけたとき、藤原は実母にお願いして、当時まだ普及し始めたばかりだったインターネットを使い「グングニル」の意味を調べてもらったとか)。

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Internet Archiveから引用。クリックすると引用元にジャンプします。2000年ごろのBUMP OF CHICKENのオフィシャル・ウェブサイト。

そんな時代、黎明期から作られていたBUMP OF CHICKENの公式サイトは「手作り感」に溢れていました。メンバーの絵や文字がふんだんに使われたデザイン、ユニークな言葉でトリビアも交えながら綴られていた年表欄、メンバー同士でやり取りされた交換日記のコーナー(イラストもそのまま掲載されていました)、そしてファンが自由に書き込める掲示板(あったんだよ!)。リニューアル後にはマネージャーの高橋ひろあきさんが記す「TAKAHASHI DIARY」が連載され、メンバーの素の姿をここでも楽しむことができました

またインターネット上の露出にも非常に積極的でしたバンプ初期のライブは、当時としては珍しくネット生中継が試みられていたことを皮切りに、まだ新しいメディアだった「音楽情報サイト」でのインタビュー掲載(エキサイトミュージック、バークス等)、そして当時のエキサイトミュージックが連載を代行した全国ツアーブログ、そしてポンツカのネット配信……などなど、インターネットを使ったプロモーションを積極的に展開しました。かつて雑誌を購入しなければ手に入らなかったインタビューや、(radikoもないので)千葉まで行かないと聴けなかったレギュラーラジオ番組などが、インターネットから全て無料で楽しむことが出来たのです。お金のない10代・20代が、こうして浴びるように「バンプの情報」を手に入れることが出来たことは、どれだけ大きかったことでしょうか

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Internet Archiveから引用。クリックすると引用元にジャンプします。BUMP OF CHICKENのファンサイトでは当時最大規模を誇った「vivid sky」(現在は閉鎖)。

そしてファンもまた、触発されたようにBUMP OF CHICKENのファンサイトを林立させていました。携帯電話からも簡単なウェブサイトが作れるようになっていた当時、様々な年齢層・立場のファンたちがバンプのサイトを競うように作っていたのです。当時のバンプには、「情報交換」するにはもってこいの要素で溢れていました。まずは何と言っても「隠しトラック」——ほぼ全てのCDに隠しトラックを入れるバンドは、後にも先にも間違いなく彼らだけーー情報。このシングルではこの曲が聞ける、プリギャップ(今は滅びてしまった、CDを巻き戻すと現れる特殊な隠しトラック)はこうして聞く……といった情報は、特にファンになりたての人々にとっては嬉しくて仕方がない情報でした。そして「ニケ」「ホッセ」「ポキールなどといった、あまりにも特殊なバンドの「用語解説」! メンバー4人の中だけで広がっていた「マイブーム」な言葉たちが、一方でバンドのパブリックな活動においても露出していた時代でした。よくわからない言葉は、「さらに詳しいバンプファンに聞」けばいい。そういうとき、ファンサイトによく存在していた「用語解説」は、本当に楽しい読み物コンテンツのひとつとして機能していたのです。

そして、何よりも「掲示板」カルチャーです。露出が少ない彼らの情報を共有し、ライブレポをやり取りし、(ファンクラブが無いこのバンドにおいては死活問題である)チケット先行情報を手に入れ、さらにバンプに「よく似た」バンドも調べ尽くす……。あげくには歌詞を読み解く掲示板、果ては自作の詩を投稿する掲示板までもが(ギャー!)そこかしこに建てられていました。ファンサイトにあった掲示板は、バンプの、そして当時のロックバンド情報を、そして思春期の創造をもやり取りする、最もホットな場所だったのです。

これは記録が残っていない筆者の「実感」なのですが、2003年当時、インターネットで隆盛を極めていたファンサイトって、だいたいミスチルか、スピッツか、バンプだったように思います。その中で言えば、バンプは圧倒的に若い存在でしたこれは非常に際立っていたと思います

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もうひとつあります。2002年から2004年ごろにかけて、インターネットでは「FLASH」アニメーションが大流行していました

FLASHアニメーションは、まだ回線が脆弱な当時のインターネットにおいて、軽量なサイズで(当時としては)高音質なmp3音源とアニメーションを同時に再生することができる、マルチメディアに特化した最先端の技術でした。まだ文字や、画像すらも少々ロードに手間取っていた時代に、動きがあるアニメーションを……しかも音付きで楽しめたことは、正に衝撃といってよいほどの革命だったのです。これを作ることもまた簡単だったことから、様々なアマチュア・アーティストが、BUMP OF CHICKENの音楽を使って自分の「アニメーション」を発表しました物語カラーが強く、誰もが映像を思い浮かべることができる音楽……彼らの当時としては「特殊な」楽曲性が、ここでも強みを発揮したのです。一度インターネットにアップしてしまえば、誰でも簡単にダウンロードしたり、転載して自分の「FLASH倉庫」に再アップすることも出来ました。そうしてまた無限に広がり、「私もこの音楽にアニメをつけてみたい」と思わせる……誰もが絵をつけたくなる、アニメーションをつけたくなる音楽、それがバンプだったのです

このことは、少々「正の歴史」として取り上げるには躊躇してしまう部分があります。いうまでもなく、CD音源のやり取りは当時でも違法なことでした。けれどこのルートでもまた、ましてやロックファンではない(重要!)、出てきたばかりのインターネットを凄まじい好奇心で泳いでいた少年・少女たちに、BUMP OF CHICKENの音楽へ触れる機会を与えたのです。彼らはやがてファンに成長し、テレビにも出ないのに20代以上へ圧倒的な知名度を(未だに)広げ、そしてちょっとファンを卒業した今でも、どこか不思議な親近感を感じさせるのは、このころのバンプのイメージがあることは紛れも無い事実でしょう。インタビューなどのコンテンツだけでなく、彼らの音楽そのものすらも、インターネットでは「無料で」聴くことができた……シングル曲はYouTubeに丸々無料でアップする、今の音楽業界のプロモーションを、バンプは(皮肉にも)10年以上先取りしていたわけです

BUMP OF CHICKEN 結成20周年記念Special Live 「20」 (通常盤)[Blu-ray]

単に「テレビに出ない」だけでなく、新しいメディアだったインターネットを遊び心と共に有効活用した。そして彼らが想像もしなかった展開すら楽しみ、時代も味方していった……。バンプ・オブ・チキンは、まさに初期インターネット時代が生んだ、その申し子と言える存在なのです


……ツッコミ、賛同、証言、お待ちしています!(20周年ライブのブルーレイ、おすすめ!)

*1:当時のスポーツ報知など

*2:もちろん「物語」を歌うことは有史以来、音楽の非常に基本的な要素でした。しかし後述の通り、「90年代的」な、つまりマンガやアニメやゲームに触れる世代により親しみやすく歌詞を書いたことは、十分斬新だったと言えるでしょう。